AoT Novels(L)

□それは確かに今、ここにある。
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「えっ、嘘でしょ……」

壁外調査から帰還して数日後の夜のこと。リオはとある一枚の紙を見て絶望の淵に立っていた。

***

エルヴィンに呼び出されたリヴァイは早朝からエルヴィンの部屋で格闘していた。

「これからも調査兵としてここにいる以上、覚えてもらわなければならないことばかりだ。早く終われば早く解放しよう」

そう、各書類の書き方と。
早朝からだったのはエルヴィンの少しの優しさだろう。後に延びるより先に時間を取るという。
リヴァイはリヴァイでめんどくせえと言わんばかりの不機嫌を撒き散らしているがそれがエルヴィンに通用する訳もなく、仕方なく書類とにらめっこをしていた。

「エルヴィン、入るよ」
「ああ」

ノックの後に少し間延びした声が部屋に響く。部屋の主の返事を待ち扉は開けられた。

「これ、報告書始末書その他諸々」
「ふむ、まあいつもよりは早い提出だな」
「そりゃあんだけリオに釘刺されちゃね〜」

ハンジの言葉にリヴァイがピクリと反応する。

(そういえば今日……、あいつの顔見てねぇな)

ハンジが起きているぐらいだ、彼女だってもう動き回っているだろうと思ったがいつも一緒に行動しているエルヴィンがいるこの部屋には一切顔を出していないし、出す雰囲気もなかった。2人のやりとりを余所にリヴァイは窓から青空を見上げ少しばかり思いを馳せた。あれから数日、リオのおかげでリヴァイは確実に仲間たちにとけこみ始めていた。リヴァイの姿が視界に入る度に気にかけたリオは本当に面倒見がいい。しかし今日はまだ見ていない。

「じゃあまだやる事あるから、失礼するね。リヴァイ、がんばれ〜」
「うるせぇ」

ニヤニヤと笑いながら部屋を後にするハンジに一言投げ捨て再び書類とにらめっこを始める。先程と違うのは、早く終わらせてリオを探しに行こうという気持ちがあることだった。

***

有言実行、いや、言ってはいないので有思実行とでもいうのか。リヴァイはそうそうに終わらせると昼前に部屋を後にした。なお部屋の主人であるエルヴィンはリヴァイを残し退室したため、リヴァイが本当に終わらせたかどうかは不明だがそれはそれ。

(とりあえず、部屋、か)

廊下にブーツの音を響かせて先日教えてもらったばかりの彼女の自室へと向かう。調査兵団上層部の自室は渡り廊下を挟んで男女分かれているが、いつ何時でも報告がしやすように男子禁制、女人禁制などの決まりが撤廃されている。実際問題、上層部女性陣など数が限られているので部屋は余っている状態だ。
他のものには一切目もくれずリオの部屋にたどり着いたリヴァイは、少し考えてからノックする。
返事は無し、どころか人の気配もない。念のためドアノブをひねってみるがちゃっかり鍵はかかっていた。

(部屋で仕事してんじゃねぇのか……?)

考えが検討外れに終わったため、リヴァイはその場でまた少し考え込み、とりあえず彼女がいそうな場所を虱潰しに探し回ることにした。
食堂や訓練用の広場、ロビーに会議室。ここ数日彼女を見かけた場所を順繰りにあたってみたがこれまた外れだった。
すると突き当たりの向こうから今朝方聴いた声が響いてくる。

「おいクソメガネ」
「出会い頭にクソメガネはないだろ!私にだって名前あるんだぞ!リオには懐いたくせに!」
「懐いてねぇよ。それより、リオがいるところにどこが心当たりはあるか?」
「それよりって……!いやでも、たしかに今日1回もリオを見かけてないかも。モブリットは?」
「自分も見てないですね」

いつも何かとリオリオと連呼するハンジなら居場所ぐらい知ってると思い話しかけたのが馬鹿だったと盛大に舌打ちを漏らす。

「そういえばリヴァイ、書類との格闘は終わったの?」
「終わったからここにいる」
「ズルしてないだろうね〜。あとでエルヴィンに怒られちゃうよ」
「してねぇよ」
「あっ!」

ハンジの絡み方を若干鬱陶しく思いながら次はどこを探そうかと考えていればモブリットが声を上げた。

「なんだ、心当たりがあるのか」
「えっと、まぁ、たぶん……、なんですけど」
「さすが同期なだけあるね!で!?」
「昨日の夜、絶望に打ちひしがれた様な顔で自室に戻っていくのを見たので、おそらく……」

***

「にー……、しー……、ろー……、8個しかない……。これも早急に注文かけなきゃか……」

当のリオといえば、地下の倉庫で備品の数をひたすら数えていた。
リオを絶望の淵に立たせたのは3週間前の日付の1枚の記入表。週に1回のペースで備品確認を行うため、本来なら今週の日付のものが最新でないといけないのだが、まったく見当たらず地下倉庫の確認表も見たが、3週間前以降にサインがあるだけでここ2週間分のところにサインは一切書かれていなかった。
この仕事はめちゃくちゃに時間がかかるため本来なら2〜3人でやる仕事なのだが、なにせ壁外調査から帰ってきてからまだ数日。落ち着くにはまだ更に数日必要になるため、リオがこの仕事を買って出た、というよりかはおそらく誰もやりたがらないので仕方なくやっている。

「は〜、もうお昼……、明日までかかっちゃう……」

部品の名前と在庫数、注文予定数等々を紙に書きながらお昼を告げる鐘を微かに聞き届ける。自分のやるべき書類は昨日のうちに全て終わらせたが、この仕事をやっている間にまた溜まることを考えるとリオは憂鬱で仕方がなかった。

「リオ」
「ほわぁああ!!!ああ!文字が!!」
「……悪い」
「いえ大丈夫です!……って、リヴァイさん」

自分しかいないはずの空間で急に声を掛けられて思わず肩が跳ね上がる。その際にペン先が盛大にずれたが余白の部分に走っていったので問題はなかった。振り返れば予想だにしなかった人物にまた少し驚く。

「なにをしている」
「備品の数を数えてるんですよ。今棚にある数と、前回補充した際の合計数と、持ち出し表に書かれている数の計算が合うかしっかりと確認して、また次の注文をするんです。ところで、よくここが分かりましたね」
「……アイツが」
「誰ですか」
「……モブリット」

リオなら分かるだろうと名前を伏せたが笑顔の圧でしっかり名前を言わされるリヴァイ。これではハンジに懐いてると言われてもしょうがないだろう。

「ああ、そういえば昨日部屋に戻る前に見かけたかも。よく分かったな〜」
「それはいつ終わる?」
「この調子だと明日も朝早くからやらないといけないですね……。いかんせん誰もやる人がいないので」

その言葉にリヴァイはリオの横にしゃがみこむと紙を覗き込んだ。

「俺もやろう」
「え、いいんですか!?あ、えっと、じゃあ私今左側上段からやっているので、リヴァイさんは右側上段からお願いします。たぶん一番上は届かないので、あそこにある踏み台を使ってください」
「わかった。その代わり、またアレを飲ませろ」
「紅茶ですか?いいですよ。しっかり手伝っていただければ!」

なんだかんだで紅茶を気に入った様子のリヴァイに笑顔をほころばせ、やり方を1から丁寧に教える。そういえば今日はエルヴィン直々にお勉強のお時間を取ると言ってた気がしたが、自分から手を出した仕事が早く終わるのであれば、最悪その先生をエルヴィンの代わりにしてもいいと思うリオなのであった。

***

残る棚も3分の1ほどになった頃、リオは不意に口を開いた。

「そういえば、わざわざモブリットに私のいそうな場所聞いた〜みたいなこと言ってましたけど、探してたんですか?」

ピクリとリヴァイの動きが止まる。リオは手元に集中しているため、それには気付いてないがしばらく返事がないことを訝しんだ。

「リヴァイさん?」
「別に、探していたわけじゃない」
「の割には、わざわざここまで来たんですよね?」

探していたという事実を彼女本人に知られてはいけない気がしてリヴァイは他の理由を探す。

「……」
「特に理由がないならないでいいですよ。ハンジさんとかいつもそうですし」
「……お前は随分、アイツと仲がいいんだな」
「仲がいいっていうか……、ハンジさんが必要以上に可愛がってくれるんですよね。退屈しないのでいいんですけど」

もちろん仕事を邪魔される時もあるが、これだけ可愛がられて嫌な気はしない。巨人の生態についての研究成果の話を取ってみても、調査兵団内で時間さえあれば最後まで聞き続けられるのはリオなので、そこが一番ハンジにとって重宝されてるのかもしれない。

「でもまあ、確かに初対面だとキツいかもしれませんね。巨人のこととなると無自覚に生き急ぐ人ですし」
「……」

よくそんなヤツが生き残っているな、と思いながらリヴァイはまた1列備品の確認をし終えた。

(なぜ……、なぜ俺はリオを探そうと思った……?)

ふと今朝のエルヴィンの部屋での自分の思考を不思議に思う。たまたま手伝えるような仕事をしていたので今の状況になっているが、これがリオにしか出来ない仕事だったなら姿だけ見て自室に戻る事になっただろうに。
自分自身にモヤモヤする。

「さっ!口より手を動かして、今日中に終わらせちゃいましょう」

2人の戦い

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