AoT Novels(L)

□それは確かに今、ここにある。
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「ハンジさんきちんと早め早めで報告書提出してくださいね、団長の負担になるので」
「わかってるよ〜」
「って毎回毎回言うけど全然早くに提出してくれないじゃないですか……」

ハンジの軽々しい返事に多少呆れながらリオは汚れたマントと兵服の袖から腕を抜く。幸いシャツやパンツに目立った汚れは無いのでベルトは外さずその格好のまま自室に戻った。壁外調査帰還後は仕事が溜まりやすく、片付けられるものはさっさと片付けていかなければ机が書類で溢れる。
早急に報告書を書き上げてペンを置くと、ぐぐっと身体を伸ばす。

「……」

無言で考え込んだ後、すくっと立ち上がりこれだけが給料の使い道、と言いたげな棚から一式を取り出した。どうしてこんなにも彼を気にかけてしまうのか。同じ地下街の出だからなのか。それとも。

***

昨日と同じような夜風が兵舎の周りを吹き抜ける。壁の中か外かだけで雰囲気がこんなに変わるものかと彼は風を受けながら屋上から星を見上げていた。何かしていれば気も紛れるだろうが生憎今の彼に出来ることは無いので、兵士たちの喧騒を背にこうして暇をするしかなかった。

「あっ、ようやく見つけましたよリヴァイさん」
「……何の用だ」
「……気安い言葉をかけるつもりはありません。あれは壁外に出れば誰もが直面する現実です」
「お前もか」

リヴァイのその言葉にリオは初めての壁外調査の日に思いを巡らす。初めて目の当たりにした巨人。無残に食われゆく仲間。力なき自分への失望。あそこから生きて帰ってこれただけでも一人前だ、なんて言葉を投げかけられたが、帰ってきてからしばらくは食事が喉を通らなかった。

「同期で入った子たちの半分が初めての壁外調査で失われました。今はそのさらに半分しか同期は残っていません。壁外に出る度、仲間を失い続けてます」
「お前らの方がつらい、とでも言いたいのか」
「いいえ。貴方の方が辛いでしょう。自分の選択で連れてきたお仲間を全員失っているのですから。そして私にはその膨大な喪失感は共感できません。私はその当人ではないから。
……調査兵団、続けるのでしょう?なら、貴方にもきっと、失う事や巨人と対峙した時の恐怖が無くなる怖さに気付きます。それに気付いてしまってからが私たちの勝負所なんです」

まあこんな事、私が偉そうに言える事じゃないんですけど。
と、リヴァイの横に立つ。その手には二つのティーカップが持たれていた。

「……何かあったら言ってくださいね。これ、気が向いたら飲んでください。ホットで淹れましたけど、冷めても美味しいのでよかったら」
「これは……」
「紅茶です。リラックスできますよ」

匂いにつられて手が伸びたのかリヴァイはその手でカップの縁に指をかける。持ち手は使わないのか……、と思いながらそれを口に運ぶリヴァイを眺める。

「……美味い」
「そうでしょう?あまり気を張り詰めてても、いざって時にダメになったら元も子もないですからね」

話を聞いてるのか聞いてないのかリヴァイは夢中で紅茶を飲み干した。よほど気に入ったらしく、リオが自分用に持ってきた紅茶に視線が飛んだ。

「これはダメですよ、私の分です。
……また飲みたかったらもっと周りと打ち解けてくださいね。貴方の性格をどうこうしろと言うことではなく、どんな形でもいいのでコミュニケーションを取ってください。それが出来たら、またご馳走致します」

ふわっと笑うリオに、リヴァイの警戒は解かれた様で彼は静かに呟いた。

「分かった、リオ」

初めて名前を呼んでくれたことに対して周りに花が浮いているんじゃないかと見違えそうな雰囲気を纏い、満面の笑みを零した。

「よろしくお願いしますね、リヴァイさん」

星空の下
(おや、随分と機嫌がいいな)(ふふ、分隊長より一歩先を行かせて頂きました)(?)

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