AoT Novels(L)

□それは確かに今、ここにある。
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そして、リヴァイたちが調査兵団に加わってから初の壁外調査は大雨に見舞われていた。

「だんだん酷くなりますね」
「視界が悪い、あまり速度を出すな」

こう雨が強いと信煙弾がかき消されることがあり巨人の襲来に気付かない可能性がでてくる。そのため馬はあまり速度を出さず、なおかつすぐに飛び出せる状態を保たせる。

「右前方、おそらく……奇行種かと」
「リオ、頼めるか」
「了解」

エルヴィンの言葉を合図に1人隊列から抜けるとリオは大型奇行種の元へと馬を走らせる。幸いそこそこ樹が乱立してるため立体機動を扱うのに不利な場所では無かった。
ある程度の距離で馬から立体起動に移ると、四つん這いで這いつくばっていた奇行種と目が合う。

「おや、ハンジさんが好きそうな巨人だね」

雨粒に打たれながら木々の間を駆け抜ける。十分な距離を取りながら奇行種の行動を見極める。片脚の腱ぐらいならいただけるだろうか、とアンカーを巨人に向けて射出した時。

「わっ」

リオに向かって大口を開けて飛びかかってきたのだ。それをひらりと交わし着地寸前のその頸に狙いを定める。

(ここが、決め所……!)

ブレードが肉に切り込まれていく感覚がトリガー越しに全身を駆け巡る。

「ふっ……!」

渾身の力で頸を切り落とし倒れこむ巨体から離れる。もう動かないのを確認してリオは指笛で馬を呼び戻した。立体機動から馬に乗り移ったところで異変に気付いた。

「隊列が崩れてる……?」

急いでエルヴィンを探しながら前進すると数キロ離れたところで視認できた。目的地は目の前だが、ここにきて巨人の群れ。隊列なんてものは跡も形も残っていなかった。

「エルヴィン分隊長!」
「よく戻ってくれたリオ」
「信煙弾が機能しなかったんですか?」
「ああ、おかげでこの状態だ。続けざまで悪いが巨人の殲滅を頼む。目的地は目の前、ここで引き下がるわけにはいかないらしい」
「了解!」

再び立体機動に移り辺り一帯の巨人を見回す。小型も中型も大型も、通常種も奇行種も入り乱れていた。

「うわぁあああぁああ!!!!」
「くっ……!」

巨人に掴み上げられた仲間の声が鼓膜を揺らし、瞬時に身体を翻す。後ろがガラ空きのその頸に再びブレードを突きつける。力の抜けた巨人の手の中から仲間が滑り落ちた。

「みなさんは小型通常種を一体ずつ、確実に仕留めてください!中型大型や奇行種は私たちが討ちます!」

リオの指示に逃げ惑っていた兵士たちが立ち上がる。次々と軽やかに巨人を倒していく中、リオはリヴァイを探していた。

(分隊長が連れてきた人だし……、大丈夫だよね)

***

「はぁ、はぁ……。終わった……」

巨人が消える蒸気と雨によって発生している霧で先程より視界が悪いが巨人の群れとの戦いは調査兵団の勝利で終わった。

「リオ、負傷者と新兵たちをつれて団長たちと先に目的地に行っておいてくれ」
「分隊長は?」
「構うな、大丈夫だ」

そのままエルヴィンはリオの元を離れる。いくら巨人を一掃した後とは言え護衛も付けずに1人でうろつき回るなど……と思ったが、指示に従って負傷者たちをまとめ上げ、本隊と共に目的地の古城へと向かった。

***

「リオ、お疲れ様」
「モブリット!お疲れ様、大丈夫だった?」
「まあお陰様で」

新しい包帯を取りに来た同期のモブリットの後ろではハンジが何やら騒いでいるが、騒ぎながら負傷者の手当てをしているので文句は言えない。そして、負傷者と新兵の数を合わせても出発した時よりかなり減っていた。

「やっぱ雨が降ると生存率がガクッと下がるね……」
「しょうがない、で片付けられないのが痛いけどね」

よく見れば、リヴァイが連れてきた仲間たちが誰1人としていない。そもそもそのリヴァイも見当たらない。キョロキョロと辺りを回しているとエルヴィンが彼を連れて戻ってきた。

「各分隊長、班長、集合!」

団長を中心に分隊長、班長クラスの人間が円を作る。エルヴィンの隣にリオも立ち並ぶ。主な指示は2つ。重度の怪我を負った者たちを優先的に手当てを続けること、明日の昼には古城を発ち壁内に戻ること。
そもそも今回の目的はこの古城が無事かどうかを確認すること。当初の目標が達成された今、危険な壁の外に居続ける理由はない。

「……!」

ふとずっと気にかけていたリヴァイを見つけたリオだったが、彼の目には明らかに憎しみが宿っていた。

(ああ……、まさか……)

あの乱戦の中で、仲間が全員食われてしまったのだろうか。初めての壁外調査で自分が連れてきた仲間たちを全員失うなんて、想像に容易くない。何か声をかけようかと思ったが、過去の経験から今はそっとしておくべきと判断する。

「以上。何かあれば逐一報告しろ」

それを合図に各々持ち場に戻る。その場を動こうとしない彼を背に、リオは忙しなく動き回る準備に入った。
そして全体的に落ち着きを取り戻したのは雨が止み、月が顔を出した頃だった。

「リオ、大丈夫かい?顔色が悪いよ」
「ナナバさん……。大丈夫……、なつもりなんですけど、そんなに顔色悪いですか?」
「ああ、遠くからでも心配になるぐらいには」
「少し休んだ方がいいだろう。夜風が涼しい、外で当たってこい。団長やエルヴィンにはオレから言っておこう」
「ミケさんまで……。ありがとうございます。じゃあちょっと外れますね」

上官2人にそう言われては従わざるをえないので、手に持っていた物を全て預けて外へと足を向けた。
一歩外へ出ると、数時間前までの雨が嘘のように空には星が煌めいていた。優しく吹き抜ける風に肩につくかつかないか程の長さの髪を弄ばせる。

「……」

何人を救えて、何人を救えなかったのだろうか。壁外調査の度に思ってしまう。もっと、助けられた命があったのではないかと。そう思ったところでそれ以上の実力が自分にある訳じゃないので高望みはしないのだが、それでも自分がもう少し強ければ、とは考えてしまうのだ。
雨上がりの空気を肺いっぱいに吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。

「気持ちいい……」
「大丈夫か?」
「……外にいたんですか。今頃ミケさんが私を休憩させている事を報告しに探し回ってますよ」
「そうか。まあ、あとで聞いておくよ」

古城の周りを一周したのだろうか、エルヴィンは暗闇の中から現れた。リオの横に立つと彼女に倣うように空を見上げる。

「……」
「……あの、彼は大丈夫なんでしょうか」
「リヴァイ、か?……仲間を、全員食われたらしい。地上に連れてきたことを後悔してきるようだ」

予想が的中してしまいリオは俯いた。訓練兵団を卒業していても簡単に食われてしまうのだ。無理もないのかもしれない。だが、リヴァイは彼らに慕われていた。それはつまり、彼が彼らのことを信頼していたという事。

「だが、調査兵団は続けてくれるらしい」
「……相変わらず、悪魔の様な人ですね。分隊長は」
「面と向かって言うのは君ぐらいだぞ、リオ」
「えぇ、私が言い始めたんですから……」

そこに深い意味があるのを知るのはその2人だけ。リオはまた一つ息を吐き夜空を見上げた。

翌日、調査兵団はあれから人数を減らす事なく壁内へと帰還した。

壁の外

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