AoT Novels(L)

□それは確かに今、ここにある。
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「えっと、どちら様ですか?」

上官の横に立つ小柄な……上官の隣に立っているせいでもあるが……男性を目の前に彼女が発した第一声がそれだった。自分と同じぐらいの身長の、おそらく上官と同じぐらいの歳の男性。その目付きはお世辞にも良いとは言えず、鋭い眼光をリオに向けていた。

「俺がスカウトしてきた。リヴァイだ」
「スカウトって……、分隊長権限でですか……?あっ、えっと、リヴァイさん?私、リオといいます。よろしくお願いしますね」

上官……、分隊長は今朝早く出かけていったと思えば知らない人物を連れてきたのだ。少し困ったように眉を八の字にしてエルヴィンを見やれば見事に笑顔で返されてしまったので、無かったことにして小柄な男性に自己紹介をしつつ手を差し出した。

「……あぁ」

だが彼が手を差し出すことなく、リオの右手は虚しく浮いたままの状態となってしまった。むぅ……、と顔に出そうになるのを抑えてにこやかな笑顔のまま無言で右手を下ろした。

「すまないが、彼らに部屋と兵服を用意してやってくれ。団長の許可は取ってある」
「分かりました。掃除が必要なので新兵を何人かお借りしても?」
「構わない。よろしく頼む」

了承を得たところでエルヴィンに敬礼し踵を返す。踵を返しざまに彼に視線を送ればバッチリと視線が合ってしまい、その眼光は鋭いままだった。

***

「この2部屋しか隣り合ってる所がなかったので、申し訳ないですが皆さんは大部屋、リヴァイさんは小部屋でお願いします。あとこちら、兵服とマント、立体機動装置装着用のベルトです。地下街で立体機動を使われていたとのことですので、大丈夫だと思いますが付け方がわからなかったら、そこら辺歩いている人捕まえて聞いてください。あっ、あと兵服のサイズが合わない場合も」

新兵3人引き連れての大掃除は無事に日が落ちる前に終わることができた。部屋と兵服についての説明もし、では、とリヴァイたちの前を去ろうとした時だった。

「……お前は、」
「はい?」
「お前は次にいつここへ来る」

その問いの真意が読めずに、少し考え込んだ末に。

「う〜ん、この後ハンジさんの長話を聞かないといけないのでそれが終わってからとしか……。まぁおそらく明け方になるんですけど……。あ、夕飯の時は鐘がなるのでそれを合図にしてください。もしかしたら誰か迎えに来るかもしれませんけど」
「……そうか」

どうやら彼の聞きたかったことはそういう類ではなかったようだが、何かには納得したようなので一先ずは良しとした。

「あ、それから」
「?」
「私にはお前≠ナはなくリオ≠ニいう名前があるので、次はちゃんと名前で呼んでくださいね」

冗談めかせて言ってみたが、それはまるっと無視され彼は小部屋に入っていった。それにつられ彼の仲間たちも大部屋へとなだれ込んだ。
まぁ、そういう人なのだろうと区切りをつけてリオはハンジの元へと向かった。

***

「……ところでさ」
「え?なんですか?」

巨人について熱く語っている途中でハンジが話題を変えるなど滅多にないことでーというかこれが初めてかもしれないーリオは軽く襲われていた睡魔を吹き飛ばした。

「今日エルヴィンが連れてきた彼、どう?」
「あ〜、リヴァイさんですか?無愛想ぶっきらぼう口が悪いの三拍子揃ってるっていうのが、第一印象ですかね」
「え〜リオが相手でもあんな感じなのか……」

どうやらハンジはまったく相手にされなかったらしく、それを考えたらあそこであの会話を出来たのはハンジよりかは心を許してくれてるのでは?と思ったが勘違いだったら恥ずかしいことこの上ないのでその思考自体を無かったことにする。

「でも地下街から地上に上がってきたばっかりなんですよね?仕方ないんじゃないんですか?」
「そんなものかな〜」


リオも地下街出身で調査兵団に入った1人だった。しかし、ハンジがこうも巨人以外に興味を示すのは珍しい。本当に。

「なんでそんなに気になるんですか?」
「エルヴィンが連れてきたからだよ……。逆に言っちゃえば実力は確かなんだけどさ……、次の壁外調査にも普通に出すって」
「……そのためにスカウトしたんじゃやいんですか?」
「いやそうなんだけど……、なんか、心配じゃない?」

抽象的な言葉を並べ立てるハンジも珍しい。珍しいことだらけで明日は、いや日付は変わっているので今日はそれこそ巨人でも空から降ってくるんじゃなかろうかと別の心配をし始めてしまうリオだが、そんな彼女はリヴァイに対して何一つ心配などしていなかった。

「きっと杞憂ですよ」

はじまりの日、邂逅の場所

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