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□どうやら自分は想われている
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カーテンの隙間から入り込む朝日に刺激され、ゆっくりと瞼を持ち上げる。しばらくしてからぐっと身体を伸ばしてベッドから降りながら寝間着のボタンに手をかける。
「ぁー……」
兵服に着替え終わるも頭はまだ完全に覚醒せずに立ち尽くす。
「ん〜……」
未だに自分の体調も完全に把握できないまま、リオは訓練地へと向かった。
***
次の壁外調査へと向けて新兵を交えて行われる陣形訓練。愛馬を連れに厩舎へと向かう途中。
「大丈夫か?」
「え……?あ、リヴァイ兵長……。大丈夫です、よ……?」
「なんだその曖昧な返答は。ぶっ倒れる前にハンジに言っとけよ」
「はぁい……」
自分で鏡を見た限りでは顔色は悪くなかったが、リヴァイの目には体調が悪そうに見えたらしくリオに気をかけた。だが本人が曖昧にしろ大丈夫と言っている限り下手に過保護になってもとリヴァイはリオの元を離れる。そんなリヴァイを猫背で見送ればなかなかの勢いで背中に衝撃が走る。
「おはようリオ。また猫背になってるよ」
「二ファ……。だからってそんな思い切り叩かなくても……」
同僚にいつもと同じ事を指摘されて叩かれた背中をさすりながら背筋を伸ばすが、気を抜けばすぐに猫背に戻る。
「リヴァイ兵長と何話してたの?」
「いや……特に何と言うわけでは……」
体調を気にかけられたと言ってしまえば二ファに余計な心配をさせてしまうことを考えてリオは言葉を濁す。ふーん、そっか、とあまり追求してこない所が彼女のいい所だ。
「さっ、早くしないと集合時間に間に合わなくなるよ」
***
朝は微妙だったとしても、長時間馬に揺られれば少なくとも身体に影響は出るわけで。
(気持ち悪くなってきた……かも……)
昼休憩で一度馬を厩舎に戻し食堂へ向かう途中、明らかに悪化し始めている体調に顔を顰めながら空を見上げる。まだイケる、とは思うもののリヴァイの言った通り倒れる前に直属の上司にあたるハンジには言わなければと昼食を受け取る。食堂内を見渡してどこに座ろうかと考えていれば少し離れた場所で二ファが手を挙げたのが見えた。
「疲れたね。午後はもっと本格的にやるって」
「まあ一ヶ月で新兵に覚えさせるにはそこまでしないといけないだろうね……」
とりあえずスープを一口。だが固形物を口に運ぶ気にはならなくて手を出すのを躊躇う。
「リオ、食べないの?」
「あー、なんかちょっと、気持ち悪くてさ……」
「大丈夫?ハンジさんに言って午後の訓練休ませてもらったら?」
「まだ平気……、だけど、これ以上悪化したら言うよ。ありがとう」
二ファの心配する顔を払い飛ばすようにリオは笑顔を見せた。
***
強がりの笑顔を見せることはできても、乗馬の振動に耐えられる筈もなく午後の小休憩に入る頃にはフラフラになっていた。
(やばい……、これは……本当に……。ハンジさん……どこいった……)
近くにいるはずだが探しに行こうにも愛馬に寄りかかっていてとても歩ける状態ではなかった。小休憩が終わる前にはと思うもだんだんと視界がぼやけはじめる。
「リオ?すごい顔色悪いけど、えっ!?ちょっと!!」
愛馬の身体を沿うように崩れ落ちたリオを二ファは地面ギリギリの所で抱き上げる。昼に比べてあきらかに顔色が悪くなっている時点でハンジを呼ぶべきだったと、近くの後輩に誰でもいいから上官を呼ぶように指示を出す。
「リオ……」
***
夕陽の朱に刺激され身動ぐ。背中でベッドではない硬さに違和感を感じつつ、夕陽を受け入れるように瞼を持ち上げる。
「ん…………」
ボヤける視界が天井を捉える。兵舎ではないことは確かだが、ここが何処なのか確認するために身体を起こすほどの気力は無く再び瞼を落とす。
「動けねぇのか」
「えっ。兵長……。いたんですね」
自分しか居ないと思っていたためにリヴァイの声が聞こえて落としかけていた瞼を持ち上げる。
「倒れる前にハンジに言えっつったろ」
「う……」
釘を刺されてリオは口を噤む。何を言われても仕方ないとゆっくりと身体を起こすと、枕代わりにされていたマントとは別のマントが毛布の代わりにかけられていた。ふとリヴァイを見ればマントを身に付けていなかった。
「ハンジも心配していたぞ。それに部下の体調不良に気付けなかったと少なくとも責任を感じている」
「あとで謝りに行ってきます…。ところでリヴァイ兵長、これ、どっちが兵長のですか?」
「……お前にかかっている方だ」
そう聞いてリオは枕にしていた自分のマントを羽織るとリヴァイのマントを綺麗に畳んだ。
「ありがとうございます。洗濯してお返ししますね」
「いい。別に汚れた訳でもねぇだろ」
予想外の返答に目を丸くしていればリヴァイが近付いてきて畳まれたマントをリオの手から奪うように取ると、そのままリオの横に腰掛けた。
「いつから体調が悪かった」
「……自分で明確に体調悪いって思ったのは昼休憩前ですけど、たぶん朝起きた時からですかね」
あっけらかんと話すリオにリヴァイは溜息をつく。ああこれは呆れられてると感じつつ次の言葉を待つ。
「…………リオ、あまり心配させるなよ」
「? ハンジさんにですよね?わかってますよ」
首を傾げれば蒼の瞳と視線がぶつかる。しばらくその状態で沈黙が続くも視線を逸らすのは憚られ、パチパチと瞬きをする。
「えっ…………、と…………?」
「ハンジだけじゃない」
「あ、二ファですか?」
たしかに二ファにも心配をかけてしまったと一人納得していればまたもやリヴァイは沈黙。
「な、なんですか……。はっきり言ってもらわないと分からないですよ……」
「……まあ、二ファもだが」
とリヴァイは視線をリオから外す。どうやら彼が欲しい回答ではなかったと察するとリオはリヴァイの横顔を見つめた。差し込む夕陽がリヴァイを朱に染め上げていた。
「……俺にも、だ」
「…………え」
短い言葉だが少々歯切れの悪い感じに、明らかに上官としてでの言葉じゃない事に気付いてしまった自分の勘鋭さを今回ばかりは恨む。
「え、え?あの、えっ?」
「…………動けるのなら兵舎に戻るぞ。いつまでも訓練地の小屋に篭ってる訳にもいかねぇからな」
何かを誤魔化すように立ち上がるリヴァイ。その背中を追いかけるもリオの混乱は続いていた。
(う、嘘でしょ……。なんとも思われてないと思ってたし、実際私もなんとも思ってなかったのに……!)
顔に熱が集まるのがよく分かる。
「そんなの……、意識しちゃうじゃないですか……!」
文句を言うように小声でリオは言葉を零した。
どうやら自分は想われている
(しかも人類最強に……。なんか、好意持たれてるって分かっただけでリヴァイ兵長がカッコよく見えるから、案外私もゲンキンなやつだよね)
Fin...