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□むっつりスケベとたわわとメガネ
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小さなクローゼットの中から白いカッターシャツを取り出す。兵服の下に着る服はいつもはゆるめのものだが、今日ばかりはそうもいかないと袖を通してボタンを閉める。

「……?」

半年振りぐらいに着るカッターシャツは、着れるもののぱつんぱつんで胸元のボタンは今にも弾け飛びそうだった。

「???????
…………え、太った……!?」

***

その足音が近づいてきたのは、髪を括ろうと綺麗に束ねている時だった。こんな朝早くから一体誰が盛大な足音を立てて……と思っていると自室のドアがノックされた。束ねた髪を片手で留めて、ドアを開けば既にマントまで羽織ったリオが泣きそうな顔で立っていた。

「今日は随分とやる気が入ってるね……、どうしたの?」
「と、とりあえず中に入れて……!」

言われるがまま部屋の中に入れればリオはハンジに泣きついた。

「ねぇハンジ!服貸して!?持ってるでしょカッターシャツ!」
「持ってるけど……、リオもう着てるじゃん」
「うっ……、これ見てよ……」

束ねていた髪を髪留めで結わえながらそう指摘すれば、リオは諦めたようにマントを脱いだ。

「えっ、普通じゃない?」
「普通じゃない!見苦しくない!?太ったつもりなかったのに……」

確かに胸元ははち切れんばかりだが、ハンジの目から見てもリオが太ったようには感じられない。むしろ胸だけ成長したのでは?と考える。

「これじゃリヴァイ兵長に幻滅される……。とりあえず服を貸してほしい……」
「あのむっつりスケベは逆に喜びそうだけど……、ま!リオがそこまで気にしてるならいいよ!貸してあげる!今日は粗相のないようにしないといけないからね!」
「ありがと〜!やっぱ持つべきは頼れるお姉さん系幼馴染だよ!!」

ぎゅっ、と抱き着かれてリオの胸がハンジの身体に押さえつけられる。その弾力にやっぱ前より大きくなってる気がするとは口が裂けても言えなかった。

***

ハンジとお揃いのカッターシャツを身に付けてリオはエルヴィン、リヴァイ、ハンジと共に内地へと出向いた。今回の相手は内地貴族の中でも名の通っている大物で、調査兵団への出資の額も桁違いを提示されていた。これを棒に振ってしまえば苦しくなるのは自分たちなので、各々その貴族の取り巻きの相手を丁寧にしていた。無論リヴァイはいつも通りだが。

(つ、疲れる……!)

エルヴィンが話を纏めるまで続けなければいけないこの状況。リオは男たちに囲まれて次々に酒を勧められていたが、それをやんわりと断りつつ愛想を振りまく。男たちの隙間から垣間見えたリヴァイは着飾った女性たちに囲まれていた。

(複雑……!いやリヴァイ兵長があしらうのは知ってるけど……!そしてお酒より何か食事を取りたい……!)

先程から微かに鳴っているお腹に力を入れる。酒は驚く程に弱いため一口も飲めやしないが、今の空腹具合ならどれだけでも食べれるかもしれないと愛想笑いに苦笑いが混ざる。

「お酒、飲まれないんですか?」
「すいません、私お酒弱くて……」

新たに酒を勧めてくる男に軽くうんざりしながら笑顔で断る。が、やけにぐいぐいと押してくる。

(なんだこの人……、ん?さっきあの貴族の人の隣にいたような……?)

と押されつつ記憶を辿れば、そういえば息子だと紹介された人だと思いだす。尚更面倒臭い。

「僕の勧めた酒が飲めないと?」
「いえ、飲みたいの山々なんですけど、一口で潰れちゃうので……」
「大丈夫、僕が優しく介抱してあげるよ」
「いやだから……」

いい加減キレそう、と口調を強めようとした時、彼の視線が自分の顔ではなく胸にしか行っていないことに気付く。ハンジのを借りたおかげで見苦しくはなくなったが、それでもついつい目が行く程の主張はしていた。

(ッ!最ッ低……!こんな場じゃなかったら投げ飛ばすのにッ……!)

見えないように拳を握りながら、尚も酒を勧めてくる男をどう躱そうかと喋りながら考える。こういう男は口も達者。負けるわけにはいかない。

「そうか、周りに人がいるからダメなんだね。じゃあ向こうで二人で飲もう」
「え、ちょっ……!」

酒に弱いと説明してるにも関わらず自分勝手な解釈をされ、腰に手を回される。ぐいっと腰を引き寄せられた瞬間、男から低い声が漏れた。

「い゛っ……!?」
「酒に弱いから飲めねぇつってんだろ。そもそも、人のモンに手ェ出そうとしてんじゃねえよ」
「リヴァイ兵長……!」

いつのまにか着飾った女性たちを置き去りにすぐそばまで来ていたリヴァイはリオの腰に回されていた手を軽く捻り上げていた。そして何食わぬ顔で今度は自分がリオの腰に手を回すと男の手を離す。

「行くぞリオ。エルヴィンの話が纏まった」
「! はい!」

ようやく地獄から解放されたような気分のリオは後ろから睨まれているのに気付いて首だけで振り返り嫌味っぽく満面の笑みを見せた。

***

「先に馬車に戻っていてくれ」
「了解した」
「疲れたから早くしてね〜」

エルヴィンはまだ何か用事があるようで、三人は並んで先に馬車へと向かう。リヴァイの手は未だにリオの腰に回されたままだ。

「あっ、あの、リヴァイ兵長……?そろそろいいのでは……?」
「さすがにそれはただの変態じゃない?一部始終見てたけど」
「…………」

ハンジの言葉にギロッと睨むとリヴァイは名残惜しそうに手を下ろした。手を回されていたところがやけに熱を帯びるがリオは頭を振る。おそらく他意は無いと言い聞かせて深呼吸を一つ。

「……ところでリオ」
「なんですか?」
「今朝からずっと聞こうと思ってたんだが、なぜ自分の服を着ていない」
「えっ、気付いてたんですか!?」

いつもなら何かしら言うのに言ってこない時点で気付いていないものと思い込んでいた。リヴァイは更に続ける。

「服が無いなら俺の所に借りにくれば良かっただろう。なぜハンジのなんだ」
「そりゃリヴァイのじゃ小さいからでしょ。自分の服でもあんなんだったのに」
「ちょっっっっっとハンジ……!あんまり余計なこと言わないで……!」

喋らせれば余計なことしか口走らなさそうなハンジにすぐさま釘を刺すが、リヴァイがすかさず反応してしまった。

「あんなん?」
「どこぞの人類最強のむっつりスケベ兵士長のせいで、また胸が大きくなっちゃって自分のじゃボタンはち切れそうだったんだよね〜」
「きゃあ!ちょっとハンジ……!やめっ……!」

リオをくるっとリヴァイの方へ向かい合わせて、そのたわわに実った胸をハンジは背後から手を伸ばして揉み始めた。

「想像しちゃった?想像しちゃったよね?リヴァイの性癖でしょ絶対」
「ねっ……、ほんとにっ……、はずかし……!」

同性、なんなら幼馴染に胸を揉まれる事は恥ずかしくないが、ここは外で尚且つ目の前で愛してやまない人がガン見しているとくれば恥ずかしくない訳がない。何度身体を重ねたって恥ずかしさで死にそうになるのに。
顔を真っ赤にして、涙目で、小さく吐息を漏らすリオを見てハンジはようやく揉むのをやめた。

「ごめんごめん。二人の反応が面白くって」
「なんも面白くない……」

胸を両腕で隠すように自らを抱きすくめる。ちらっとリヴァイを見れば口を固く閉ざしていた。

「……リヴァイ兵長?」
「あれ、もしかして反応≠オちゃった?」
「うるせえクソメガネ。絶対許さねぇからな」

そういうとリヴァイはスタスタと馬車に乗り込む。二人の会話の意図を理解出来なかったリオはリヴァイを追いかけた。

「めちゃくちゃ面白いな、本当に」

ハンジはその後ろ姿をニンマリしながら眺めていた。

「あの、リヴァイ兵長?」
「リオ」
「は、はい」

馬車に乗り込めば軽く前屈みの姿勢で既に座っているリヴァイに名前を呼ばれる。来た時と同じ様に横に座れば、事前報告が飛んできた。

「今日は手加減できねぇからな」
「…………え」

抱き潰される事が確定してしまったリオは笑顔のまま凍りついた。自分の身体の心配をしつつ、おそらくここまで見越して胸を揉んできた幼馴染に若干の殺意を覚えながらリオは腹を括った。
リヴァイはもちろん、夜までひたすらに我慢していたということは言わずもがなだろう。
二人とも、全部ハンジのせいだと思いながら。

むっつりスケベとたわわとメガネ
(わざわざ着させなくても、いいじゃないですかっ……!)(これがいいんだろうが)

Fin...

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