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□未来の話
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ウォール・マリア奪還の前祝いで騒いだ夜。エレンとジャンを始めとした馬鹿騒ぎがリヴァイによって収められた後、リオは水の入ったジョッキを片手に壁の淵に腰をかけていた。投げ出した足下には明後日取り戻すはずの領土が広がっている。

「……………………」

足をふらふらさせて今は壁外の領土を見下ろしてから星空を見上げる。この大地で何があろうと変わらず輝き続ける星たちに手を伸ばして、届きそうで届かない。肩の力を抜いてそのまま後ろに倒れる。大の字になって目を閉じれば蘇る記憶たち。
その死に立ち会えた者もいれば、立ち会えなかった者もいる。彼は、彼女は、どんな最期だったのか。人伝いに聞いた彼らが死んだという事実は、リオの背中から自由の翼を奪わせたりしないと言わんばかりにのしかかる。
静寂に包まれる中、それを裂く足音一つ。
自分の頭上付近で足音が止まったことを確認して、リオは閉じていた目を開く。

「駐屯兵の哨戒の邪魔になるだろうが」
「許可は貰ったもん」
「……許可貰えばいいってもんじゃねぇだろ」

真っ直ぐ見下ろしてくるリヴァイの視線を受け止めてふたたび目を閉じる。頭上のその位置に腰を下ろしたリヴァイの雰囲気に少しだけ笑いが漏れる。

「エレンとジャンの調停お疲れ様でした」
「テメェもハンジも黙って見守ってんじゃねえよ。無駄に騒ぎやがって」
「まあ肉が出たらしょうがないんじゃない?」

ハンジと一緒に静観してた事はバレていたかと前髪を掻き上げる。リヴァイの足先に広がる少し色素の薄いリオの髪を、彼はおもむろに掬い上げる。

「お前はウォール・マリアを奪還した暁にはどうするつもりだ、リオ」
「ん〜……。特に、無いかなぁ」
「生家はシガンシナなんだろ?」

予想外の答えにリヴァイはリオの髪の毛を指先に巻きつける。細く柔らかい髪は、すぐにその指からさらさらと零れ落ちた。

「そうだけど……、エレンの家みたいに地下室に重要なモノが!とかは無いですから……。それに、またあの家を建て直したところで住む人間も帰る人間もいないから」
「帰らないのか」
「私は、私の帰りを待ってくれている人がいる所に帰りたい。私の家は調査兵団兵舎で、私の家族は調査兵団のみんなです」

自分の髪の毛が遊ばれている事に気付き手を伸ばす。伸ばした先でリヴァイの指先にぶつかり、そのまま指を絡める。まるで、子供の戯れのように。

「あっ、でもリヴァイ兵長が一緒に住んでくれるなら建て直してもいいかなー」
「馬鹿言え。帰る度に掃除が大変だろうが」
「一緒に住むのはいいんですね」

嬉しそうに頬を緩ますリオの額にリヴァイは絡ませていない方の指を弾いた。

「いたっ。もう、恥ずかしがり屋なんだから。
……リヴァイ兵長は、どうするんですか?」
「俺は……、どうもしないさ」

額を抑えながら見上げてくる彼女の大きな瞳に薄っすらと自らの顔を映す。シガンシナに生家があるわけでも、何か夢≠ェあるわけでも無い。たった一人の男に忠誠を誓い、ここまで来た。

「エルヴィンが俺を用済みとするまで、ここに居続けるだけだな」
「団長は兵長のこと用済みになんてしないと思いますけどね。というか、私の名前じゃなくて団長の名前が出てきて残念」

頬を膨らませて拗ねたフリ。リオもそれが許される歳ではもうないが、それを見て少なからず可愛いと思ってしまう自分も自分だとリヴァイは笑う。

「なんか、私とあれやりたいこれやりたいとかないんですか?そういうの柄じゃないのは分かってるけど」
「分かってんなら聞くんじゃねえよ」
「うー、団長第一主義者め……」
「だがまあ」
「?」

そう言って目を細めて己を見つめるリヴァイにリオの胸は高鳴る。

(ああ……、戦ってる時の真剣な表情も、普段の不機嫌そうな表情も好きだけど……、私を見るこの表情が一番好き、かも)

額に乗せたままだった手を伸ばし頬を撫でれば容易くリヴァイに拘束されてしまう。

「リオとやりたいことは山ほどある。ただ、それはウォール・マリアを奪還した後じゃない。人類が全て≠ノ勝利した後だ」

リヴァイの言葉にリオは目を見開いた。
全てに勝利した後、すなわち、人類が本当の自由を手に入れた後。きっとそれは、巨人と戦うことはなく、自由の翼などという象徴はいらず、立体起動装置を脱ぎ捨て、誰も命を賭けなくていい世界。

「……うん。楽しみにしてます」

遠回しに最後まで隣に居ると言ったリヴァイに、リオは死ねないなぁと瞳を潤ませる。口に出しはしないが、ここまで自分を愛してくれている人はリヴァイを置いて他にいない。もちろん、リヴァイのことを誰よりも愛しているのは自分だという自負もあるが。

「よーし、リヴァイ兵長から嬉しい言葉を聴けた事ですし、そろそろ戻りますか」

絡ませていた指を解けば、拘束されていた手が解放される。投げ出していた足を壁の上に戻して立ち上がれば、少しだけフラついた。

「っとと」
「気を付けろよ。ここから落ちたんじゃ洒落にならん」

リヴァイに身体ごと受け止められて、その温もりを背中に感じる。ほんの数秒、彼の温もりを堪能してリオは傍らに置いていたジョッキを持った。

「大丈夫ですよ、リヴァイ兵長が助けてくれるから」
「流石に立体起動無しでは無理だからな」

しっかりと地に足をつけたリオを確認してリヴァイは昇降用のリフトへ向けて歩き出す。隣に歩き並べばポケットに突っ込まれていない右手。すっと手を伸ばせばリヴァイの方からまた指を絡ませた。

「!」
「……全てに勝利する前にお前と二人で暮らしてみるのも、いいかもな」
「っ、なにそれ、プロポーズですか」
「違う」
「なんだぁ。じゃあ本当にプロポーズしてくれる時は、もっと私をときめかせてくださいね」
「する前提かよ……」
「前提です」

寄り添い歩く二人を照らす星、月。明後日には死闘が待っているなどとは知るよしも無く。そこに苦渋の決断が迫ってるとはつゆ知らず。
二人は、仲間とともに自由の翼を羽ばたかせるのだろう。

未来の話

Fin...

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