AoTNovels(S)

□For example(Y)
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例えば、貴方の隣で微笑むのが私だったら。
例えば、貴方が唯一気を緩ませてしまう相手が私だったなら。

私はきっと貴方の隣に立つその女よりも、明確に幸せだと貴方に伝えられる。

例えば、貴方が抱きたいと思うのが私だけだったなら。
例えば、私の身体でしか満足できなくなってしまえば。

私は私の全てを、リヴァイ兵長、貴方に捧げる準備は出来ているのに。

「リオ、ちょっといいかな」
「…………はいっ、なんですか?」

例えば、あの女に気安く名前を呼ばれれば虫唾が走るけれど。
例えば、その隣に兵長がいるのなら私はどれだけでも笑顔を貼り付けよう。

貴方の隣に相応しいのは私だと気付いてもらうために。

例えば、愛おしそうに目を細めるその表情が私に対してだったら。
例えば、不意に伸ばされたその指が梳く髪が私の髪だったら。

私はきっとこんな心の醜い女にはならなかったでしょう。
でも、それは些細なこと。貴方に気付かれなければいいことで、気付かれない自信が私にはある。

例えば、あの女を陥れるような画策。
例えば、貴方の横に居座り続ける女を殺してしまいたい衝動。

その全てを押し殺して、あの女が今すぐにでも死ぬのをずっと待っている。
死体も残らず食われてしまえと、残ったとしても目も当てられないほど原型を留めていなければいいと。
私は今日も壁外調査前に祈る。

例えば、そんな祈りがいるかどうかも分からない神に届いたとして。
例えば、私の目の前であの女が食われかけてて。
例えば、滑稽な程に死への恐怖を顔に浮かべて私に助けを求めていても。

私は平気で、それを見守れる。

「がっ、ぁっ……リオッ……、助け、て……!!」

一思いに噛み砕かない巨人に、何度も何度も苦痛に苛まれる女に、笑いがこみ上げる。ざまあみろと、嘲笑う。
リヴァイ兵長の横に立っていいのは私だけなのに、そこに居続けた代償だ。
私だけに向けられるはずだった愛を、あんたが罷り間違って受け取ってしまった代償だ。
死ね。なるべく苦しんで。お前が苦しんだ分だけ、私の心は晴れていく。

……例えば、助けを乞う女を見殺しにしたことも。
……例えば、木の上でずっと笑いが止まらなかったことも。
……例えば、程よく死体がバラバラになったところで巨人を殺したことも。
……例えば、涼しい顔して大地に転がった片腕を拾い上げ指に輝く指輪を外して投げ捨てたことも。

その全てを覆い隠して、私は貴方の元へ向かう。

「リ、リヴァイ兵長っ……!」
「リオか……!アイツは、」

例えば、私の抱える片腕を見てその瞳に絶望の色を映す貴方。
例えば、本音と建前と感情と声音が全てぐちゃぐちゃに混ざっている私。

「兵長っ、ごめんなさいっ、わた、わたしっ……!」
「……………………いい。リオだけでも、生きて戻ってきたなら、それで」

ああ、リヴァイ兵長。私は、上手に泣けていますね?

例えば、いや。
これらは全て、私が兵長の隣に立つ為の布石だった。
ゆっくりと私の頭を撫でるその手の温もりに思わず口角が上がりかける。

「あぁっ……、リヴァイ兵長……!」

例えば≠積み上げてきた甲斐があった。
だってー。

For example(Y)
だって私が貴方の隣にいる未来は、
もうすぐそこまで来ているのだから。

Fin...

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