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□その背中を追いかけ
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温かな日差しが街を照らす午後、店先に小さなテーブルを出して先程まで蒸らしていた紅茶を卓上に並べたコップへ少量ずつ注ぐ。

「よし……!」

背中に手を回してエプロンの結びを固く締め直すと深く息を吸い込んだ。

「いらっしゃいませ!新しく入荷した茶葉の試飲、いかがですか!」

人通りが多く賑やかな大通りに負けず劣らずのよく通る声が響く。しばらくは誰も見向きもしなかったが、芳しい香りに引き寄せられてか1人の婦人が近寄ってくる。

「どうぞ。新しく入荷したんですけど、あんまり数無いので買うなら今のうちです」
「あら……、意外とすっきりとした味わいなのね。買ってっちゃおうかしら」
「ありがとうございます!会計は店内でお願いします!」

その様子を見ていた、気になっていた人々が次々と試飲へと集まる。大盛況な状況に笑顔が止まらないリオはなんなく接客をこなしていく。

「ありがとうございましたっ、またのご来店お待ちしておりまーす!
…………はあ!忙しかった!けどあと一袋……完売させたいな……」

店先でぐっと背伸びをする。入荷した分を売り切るまであと一袋。試飲のコップもちょうど1つだけ残っている。さてはてどうしたものかと軽く後片付けをしていれば、少しばかり見知った顔を見つける。

「あっ、久しぶりですね。これ、今日新しく入荷した茶葉なんですけど、よかったら試飲いかがですか?」

リオに声をかけられて、無言でコップを取ると口元で一瞬止めて香りを楽しむとそのまま傾ける。

「ほう……、悪くない」
「ですよね!これもう最後なんですけどっ」
「貰おう」
「やった!ありがとうございます!」

小柄な常連に最後の一袋を渡して店内に見送ればリオは満面の笑みで本格的に後片付けをし始める。使ったティーポットとコップをお盆に並べてテーブルを布巾で拭く。お盆を持った方とは逆の手でテーブルの脚を持つと、会計を終えた常連が店から出てきた。両手が塞がってるリオを見るとドアが閉まらない様に彼女が店内に入るまでドアノブを引いてくれる。

「わわっ、ありがとうございます。またのご来店、お待ちしてますね」

笑顔で対応するも無言で視線を合わせてリオが店内に入るのを確認するとドアを静かにしめた。

(あいかわらず無愛想だな〜。まっ、紅茶好きな人に悪い人はいないけど!)

テーブルを店の片隅に置き、洗い場でコップをお盆ごと水にさらす。鼻歌交じりで洗い物をしていれば、店主が大きな声をあげた。

「あっ!」
「どうしたんですか、店長」
「いや〜さっきのお客さんに渡さないといけないのあったのに忘れてた……」

さっきのお客さんと言われ小柄な常連を思い浮かべる。

「えっと、リヴァイさん、でしたっけ?次来た時じゃダメなんですか?」
「そうなんだけど……、その次がいつか分からないのよね……」

よくよく考えてみれば、常連ではあるが決まった日に来るわけではなく時間がある時に来ている様子で間がまったく開かない時もあれば、忘れた頃にやって来る時もあった。

「う〜ん……。じゃあ、私が走って届けます!」
「届けるって、場所わかるの?」
「いつも南の方から来てるんで、そっちに向かえば見つけれるかと!これですか?いってきます!」
「あっ、ちょっと!あの人調査兵だから兵舎に行った方が早い……って、もういない……。そういえばあの子、彼が調査兵って知ってるのかしら……」

店主の言葉を最後まで聞かずに飛び出したリオは全速力で南に向かう。それっぽい後ろ姿を探しながら全力疾走。

(前にあそこの角から曲がって来るの見た気がするなぁ……。よし、曲がろう)

と、方向転換した前方から荷馬車。間一髪で避けると御者から怒号が飛ぶ。

「テメェ危ねえな!茶葉屋のおてんば娘か!」
「ごめんなさい!!今ちょっと急いでて!お説教なら後で受けるから〜!」
「急いでて荷馬車に轢かれたら元も子もねぇだろ!!」

正論を言われ逃げる様にその場を離れると遠目に探していた後ろ姿を見つける。ようやく見つけたと思えば角を曲がってしまった。

「嘘でしょ!?」

見失う訳にはいかないと人混みを縫う様に走る。リオがその曲がり角を通る頃には彼は次の角を曲がろうとしていた。

(待って待って!こっちは全速力で走ってるのになんでこんな距離が縮まらないの!?)

足の速さには自信があるリオだが歩いている相手に距離が縮まらない事にほんの少しだけショックを受ける。
彼の後を追って角を曲がれば見事な門構えの建物の敷地に入っていく後ろ姿。建物の中に入られたらさすがに追いかけられないと声を上げる。

「リヴァイさん!!」

名前を呼ばれて振り返るリヴァイに、一先ず胸を撫で下ろしていると2つの人影が視界に入る。

「ちょっ、止まって!」
「関係者以外立ち入り禁止ですよ!」

リオを止めようとする兵士2人の手を速度を落とさずに掻い潜る。普通ならば止まってしまうか、兵士にそのままぶつかるかのどちらかだが、その身のこなしにリヴァイも感嘆の声をあげた。

「リヴァイさんっ、これ!」

いつの間にか目の前まで来ていたリオに紙袋を手渡され、リヴァイも受け取るべきだった物を店で受け取って無かったことに気付く。

「リヴァイ兵長!申し訳ありません!」
「ただちにお帰り願うので……!」
「えっ!?ちょっと待ってくださいよ!」

先程掻い潜った兵士2人に両腕を掴まれ引き摺られそうになるのを耐える。確かにこれを届けに来ただけだが、無理矢理帰される義理も無い。

「ん……?自由の翼……?兵長……?」

ふと兵士の胸元に重ね翼の紋章があることに気が付く。そして今しがた目の前の常連を兵長と呼んだことにも。

「構わん。俺の客だ」
「! そうでしたか、失礼しました」

拘束されていた両腕を離されて少しよろける。そのまま上を見上げると屋根の上には重ね翼の団旗がはためいていた。

「うそ……調査兵団……?」
「なんだ、知らなかったのか」
「え、だって、リヴァイさん、うちに来る時いつも私服……」
「そりゃ非番の時に行ってるからな」

小柄な常連は自由の翼を持つ調査兵団の一員で、しかも兵長。その肩書きは兵団の中でも1人しかいないのでは……?などと頭をフル回転させる。

「お前……リオ、か」

エプロンに付いた名札で名前を確認するとリヴァイは笑ったような雰囲気を醸し出す。

「悪くない」
「??」

紅茶の試飲をした時と同じ声のトーンで同じ事を言われて疑問符が絶えないリオ。

「せっかく来たんだ、少しぐらいゆっくりしていけ」
「いや、そんな!一般人の私がっ」
「俺の客だ、と言ったろう」

リヴァイの言葉に少なからずもてなされている事を感じ取るとリオは笑顔を取り戻した。

「……じゃあお言葉に甘えて!」

こうしてリオは調査兵団上層部と顔見知りになるが、それが彼女の人生にどんな影響を与えたかは、また別の話である。

その背中を追いかけ
(で、何が悪くない、なんですか?)(……リオはまだ知らなくていい)(え〜)

Fin...

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