AoTNovels(S)

□甘美で艶美な砂糖菓子
1ページ/1ページ


待機室と化しているこの部屋で、全員が待ちくたびれていた。使いとして出て行ったサシャはいつ戻るのか、やることも無しにただひたすら待っていた。

「いや……、いくらなんでも遅くないか?リオ様子見に行っておいでよ」
「なんっで私なんですか。ハンジさんが見に行けばいいじゃないですか」

手間がかかることを押し付けてこようとするハンジにリオは作戦資料の端を指でいじりながら口を尖らせる。いい加減じっとしているのも疲れたが、もし様子を見に行ってすれ違いにでもなったらそれこそ、だ。

「こういうのは動き出そうとした矢先に戻ってくるものですって。大人しく待ちましょうよ」

両手を広げでやれやれといった様子で呆れたリオの行動に、隣に座っていたリヴァイがすっと顔を上げた。
かと思うとリオの首筋に顔を近づけて、すん、と匂いを嗅いだ。

「ひっ!?」

可愛げのかけらも無い悲鳴に全員が2人に注目する。

「甘い匂い……?」
「リヴァイ……、そういうのを俗にセクハラって言うんだよ……」
「最低……」
「ミケ分隊長みたい……」

ハンジは白い目で、ミカサは嫌悪し、アルミンは少し興味を持った様にそれぞれ言葉を発した。エレンとジャンは絶句したまま固まり、コニーは状況を理解していなかったが黙ってた方がいいことは察した。

「な、なにっ、なんですかっ?」
「リオ、何か持っているな?」
「何か……?あ、これですか?」

首筋に近付けていた顔を離して椅子に座り直しながら問えば、リオは胸のポケットから何かを取り出した。

「今朝方エルヴィン団長に貰ってそのままポケットに入れてたんですけど……」
「え、砂糖菓子?そういえば昨日エルヴィン内地に行ってたっけ」
「アイツはまたリオを甘やかしやがって……」

綺麗に包装された砂糖菓子を自分の目の前に置けば新兵たちは物珍しそうにそれを見つめ、上官2人はそれぞれ違う意味合いでため息をついた。

「……ていうか、そんなに甘い匂いします?」

兵服を持ち上げて胸ポケットの辺りの匂いを嗅ぐリオ。しかし自分では感じ取れないのか頭を傾げる。リヴァイとは逆の隣側に座っていたアルミンは首を横に振った。
それを見たハンジが面白そうと言わんばかりに立ち上がりリオの兵服を掴むと胸ポケットに顔を寄せる。

「……オイ、ハンジ」
「う〜ん、全っ然甘い匂いしないね……。この砂糖菓子も匂いが外に漏れてる感じしないし……。リヴァイ、よく分かったね?」
「……………………」

ニヤニヤとリヴァイを見やるハンジに蹴りの一発や二発、食らわせてやりたいが気付いたのが自分だけとあらば、それはあからさまに普段のリオの匂い≠分かっていて、そこに違う匂い≠ェ混じっていると感じ取ったということ。即ち反応すればリオに何を言われるか分かったものじゃない。口は災いの元とリヴァイは黙り込んだ。

「あらら、黙り込んじゃったか。雨白くないのー」
「面白がるものでもないでしょう……。すぐ私を餌にして兵長で遊ぼうとするんだから……」

そりゃ私が関係してくると兵長は確かに面白いけどとは言えるはずもなく、砂糖菓子を胸ポケットに戻す。と、待ち人ようやく来たれり。

「皆さん、お待たせしました、移動です!
……って、どうしたんですか?この空気」
「なんでもないよ〜。さぁ、みんな行こうか!」

誤魔化すようにハンジは勢いよく部屋から出て行く。その後を追いかけるようにエレンたちも部屋を出る。
リオは、やはり匂いが気になりサシャに声をかけた。

「ねぇサシャ?ここからなんか匂いする?」
「匂い?…………いや、なんも匂いませんけど、何か食べ物でも持ってるんですか……!?」
「だよね……、ありがとう。でも食べ物は持ってない」
「なんだ〜」

流石に自分が頂いた物をサシャに強奪される訳にはいかないと嘘をつくと、サシャは肩を落として今戻ってきたであろう廊下を歩く。同時にリヴァイがリオの横に立った。

「本当にしたんですか、甘い匂い」
「ああ。今も充分」

と言いながらまたリオの首筋に顔を寄せる。ぴくっ、と身体を揺らした彼女を見上げれば顔を真っ赤にしていた。

「……っ、さっきは驚きの方が強かったから顔に出なかったけど、今後一切みんなの前であんなことしないでくださいねっ」
「アイツらがいなけりゃいいんだろう?」

揚げ足を取るように鼻で笑うと、リヴァイはそのまま首筋にキスを落とす。

「んっ……!もうっ、そういう意味じゃないってば……!」
「嬉しい癖にな」
「あんな注目の的になるのに、嬉しい訳ないでしょう……!」

どう頑張っても一枚上手のリヴァイにリオは為す術なし。顔を真っ赤にさせたまま、リヴァイがキスを落とした首筋をさする。

「自重して……、って話なのに……」

その姿と表情にリヴァイも思わず心拍数が上がる。けれども冷静を保ちながら、あくまでも主導権は自分が握っていると思わせる。

「……まあ、部屋以外では自重しよう。恥ずかしさでリオに死なれても困るしな」

つまり、部屋では何をしようとも自分とリオの2人しかいない≠フで周りに見られることも知られる事もない、と。

「あぁ、もう!それでいいから、とりあえず私が恥ずかしさで死にそうになる事とハンジさんの玩具になるような事はやめてくださいね!」

観念したように声を上げるリオ。だがそれが失言になるとは。

「よし、言質は取ったからな」
「……………………え」

その日の夜、リヴァイの部屋にほぼ強制的にリオが連れ込まれた事は、当人たち以外知る由も無い。

甘美で艶美な砂糖菓子
(うう……、こんなことになるなら早々に部屋に置いてこればよかった)(こんなことってな……、またまだこれからだぞ)(えっ、ちょ、まっ……!)

Fin...

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ