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□近くに居て、傍に置いて
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「えっと、どこ行くんですか?」
「黙ってついてこればいい」

頑なに話そうとしないリヴァイにエレンは冷や汗が止まらない。また何かやらかしてしまっただろうかと記憶を掘り返すも思い当たる節が無さすぎて逆に怖い。向かっている先は、第四分隊が部屋を固めている方かと少しキョロキョロすれば、前から同期が歩いてきた。声をかけようとすれば、エレンより先にリヴァイが口を開く。

「リオ」
「あ、おはようございます、リヴァイ兵長。エレンも、おはよう」
「おはよう、リオ」

エレンよりは低く、リヴァイよりは背の高い彼女は朝から元気そうな顔を見せていた。

「リオ、朝からで悪いが、1つ頼まれてほしいんだが」
「? なんですか?」

リヴァイの提案を快く引き受けようとしたリオ。その2人の間を裂くように長身の影がリオを抱き寄せた。

「わわっ」
「ちょ〜とリヴァイ〜?なぁに人んとこの部下に仕事押し付けようとしてるわけ?」
「チッ……。クソメガネ、お前には関係ねぇだろ。というか今すぐリオから離れろ」

茶髪を揺らしながら満面の笑みでリヴァイを牽制するハンジの登場にリヴァイは苦虫を噛み潰したような顔をした。
普段は仲がいい……おそらく……上官2人しか見たことのないエレンは、間に挟まれているリオに視線を送る。それに気付いた彼女は眉尻を下げて苦笑い。

「関係無くないから。第四分隊の可愛い可愛い新兵が、どこぞの兵士長様に絡まれてるとあっちゃ上司として放っておけないでしょ。頼み事ならそこにいるエレンとかにお願いしてよ」
「絡んでねぇ。そもそもお前だってこの間オルオに無理矢理使いをさせただろうが。人の事は言えねぇと思うが?」
「私のはリヴァイ宛のお使いを頼んだだけだからぁ!」
「んぐ……。ハンジさん……、そろそろ苦しい、です」

言葉に力が入ると共に彼女を抱く腕にも力が入り、リオも流石に根を上げる。ごめんごめんと名残惜しそうに解放すると、すかさずその肩に腕を回した。一連の流れにリヴァイは更に不機嫌なオーラを纏う。

「気安く触ってんじゃねぇぞ……」
「えぇ〜?なぁに聞こえな〜い!そしてずっと思ってたけどここ最近リオのこと探しすぎじゃない?そんなに喋りたいのぉ?」
「…………」

不機嫌が増す。エレンどころか最早リオの事さえも蚊帳の外にしてハンジとリヴァイの間に火花が散る。

「もしかして今更リヴァイ班に入れとけば良かったとか思ってる?ざんねーん!リオはもう私のもので〜す」
「いや配属になっただけでハンジさんのものになったつもりは……」
「お前が引き抜くの分かってたらどんな手を使ってでも俺の班に入れてた」
「どうかな〜?私があの場でじゃあリオは第四分隊配属でお願い!って言ってたとしても、リヴァイは入れてなかったと思うけど!」

渦中の人間の言葉をガン無視して言い合いは続く。エレンはエレンで、そういえば新兵からもう1人リヴァイ班に入るかもしれなかったみたいな話をペトラから聞いたことを思い出していた。リオの事だったのかと、もう一度彼女に視線を送れば、ごめんね、と口を動かした。

「自分の判断で入れなかったのに私に突っかかってくるのは見当違いだろ」
「突っかかってくんのはお前だろうが……」
「私はリオを守ってるだけだからね。そもそも、そんなに大切なら近くに置くのが普通でしょ。リオだって、その方が大切にされてるって実感するでしょう?」
「えっ!?」

急に話を振られて軽く呆れていた顔を勢いよく上げる。超満面の笑みのハンジを見るが笑顔は崩れず、その問いに答えようにもエレンがいるところで……、とリヴァイの後ろに立つエレンに視線を向けて、どうしようと顔を下げる。

「待てリオ。なぜ今エレンを見た。普通は俺を見るだろう」
「リヴァイうるさいよ」
「いや、あの……」

どうしてもこの場で言わせたいらしいハンジに戸惑いながらもエレンを見て、リヴァイと少しだけ視線を合わせて、頬がほんのりと朱に染まる。

「そ、そりゃあ、まあ……、近くに置いてくれた方が、というか、近くにいてくれた方が……、その、私も嬉しい…………です………………」

後半はもうハンジしか聞き取れないぐらいの声量で、顔が赤くなっていく音が聞こえるぐらいの勢いで顔を真っ赤にさせて。

「???」

ニヤニヤが止まらないハンジと、明らかに固まってしまっているリヴァイと、耳まで真っ赤にさせてあらぬ方向を見ているリオ。3人の間に渦巻く混沌的な空気の意味を読めないでいるエレンはひたすらに困惑する。

「あの、兵長」
「黙ってろ」

先程までの不機嫌オーラは綺麗さっぱり無くなっていたがエレンの声は一蹴される。
リオのことしか見えていないリヴァイは真っ直ぐと彼女を見つめる。

「……リオ、今からでも俺のところに来るつもりはあるか?あるなら俺からエルヴィンに」
「待て待て待て待て!!なにさらっとリオの手を握ろうとしてんの!私の目が黒いうちはリヴァイにくれてやらないし触らせないからね!」
「クソメガネッ……!」

すっと腕を伸ばしてリオの手に触れる寸前でハンジに引き離され、空振った手に拳を握るリヴァイ。

「まぁでも?私が見てないところでだったら私も手の出しようがないから口出しできないけど?
さあてエレン!今日も実験と洒落込もうか!」
「え、あっ、はい!」

ハンジはリオの肩に回していた手を離すと今度はエレンと肩を組み、そのまま外へと向かう。
取り残されたリヴァイとリオ。

「……さっきのは本心、か?」
「あっ、当たり前じゃないですか……!
私は、リヴァイ兵長が来い≠ニ言ってくれるなら、いつでも貴方の隣に行く準備は出来ています……。ま、まぁ、エルヴィン団長が許可してくれれば、ですけど……!」

やはり恥ずかしいと言わんばかりにそれだけ言い残し、ハンジたちを追いかけるリオに心を射抜かれたリヴァイの眼は真剣そのものだった。

「言ってくれるじゃねぇか」

近くに居て、傍に置いて
(ハンジさん、さっきの会話ってどういうことなんですか?)(あ〜、エレンそういうのには疎そうだもんね。まっ、そのうち露骨に分かるようになるさ!)

Fin...

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