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□ドジを重ねたその先に
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(やってしまった……)

自室のど真ん中で立ち尽くす。あれだけ大切にしなくてはと、これに関してだけはいつものドジは許されないと、あれだけ己に言い聞かせたのに。
凝りもせずやってしまった。

(なんっっっっっも見えねぇ!!!)

眼鏡を失くしてしまったリオは険しい顔をしながら部屋の中を見回す。自室だからかろうじてどこに何があるか分かるが、この状態で一歩廊下に出てしまえば人の区別どころかドアノブさえも掴めなくなるだろう。

(どうする!?這い蹲って探すか!?この部屋の何処かにあることは確かだし!いやでも下手に探し回って壊したら元も子もないか……!)

動けずに1人頭をフル回転させる。いい方法が思いつかないなか、廊下から人の声。これは捕まえるしかないと踏んだリオは、まっすぐドアの方を向いていたため迷いもせず直進して開け放つ。

「……危ねえ、なっ……!?」

ちょうどドアを通り過ぎたタイミングだったのかその人は怪訝そうに注意を促そうとするも勢いよく胸倉を掴まれる。

「……………………」
「????」

眉間に皺を寄せてゼロ距離寸前まで顔を近付けるリオに彼は状況を飲み込めずにいる。その後ろでは面白そうに状況を見守る者が。

「うわぁなにこの突拍子もない状況。すっげぇ面白くない?」
「私は、別に」
「えぇ……、ミカサは興味ないかぁ」

そんな会話など彼女の耳に届いている訳が無く、1分程眉間に皺を寄せ続けた後にパッと笑顔を咲かせた。

「リヴァイ兵長ですか!?」
「長い。とりあえずその手を離せ」
「あっ、失礼しました。ついつい」

掴んでいた手を解けば、リヴァイは襟元を正す。

「よかった〜!全然話したことのない人だったらどうしようかと思った〜。一瞬ミカサかと思ったけど違うし〜」
「リオ、私はそんなに小さくない」
「えっ、いるの!?」
「私もいるよ〜」
「ハンジさんまで!?」

と言うもののリヴァイを超えて廊下に出る勇気は持ち合わせていないためその場から再び眉間に皺を寄せる。

「う〜ん、わからん」
「なんだお前、見えてないのか」
「あれ?眼鏡どうしたの?」
「そうだ!兵長!私の眼鏡探してくれません!?」

リオが見えていないのをいい事に心底嫌そうな顔をする。ハンジはさらに面白くなってきたと満面の笑みだった。

「探し物ならそこの同期に」
「ごっめーんリヴァイ!ちょっとミカサとやらなきゃいけないことあるから、リオのことよろしくね〜!」
「あ?」

面倒だとミカサに押し付けようとした矢先にハンジの悪巧みが発動し、リヴァイが振り返る頃にはミカサを連れて遥か遠く。取り残されてしまったリヴァイは部屋から一歩も出そうにないリオを見る。そして溜息を1つ。

「……入るぞ」
「やったー!さすが兵長!どうぞどうぞ!」

部屋に踏み入れれば、思いの外整理整頓されていて思わず感心する。

「……で、眼鏡はどこで落とした」
「部屋の中なのは間違いないんですよ。さっきまでしてたんで。で、一回外して胸のポケットに入れて、ちょっとだけベッドに横になって起きたら無かったんです」
「……めんどくせぇ」
「お願いしますよ〜!眼鏡ないと日常生活すら送れないんですから〜!」

リヴァイの腕に縋り付きぶんぶんと振り回す。一度引き受けてしまった以上は探してやるしかないという答えに辿り着いてしまい、半ば投げやりになる。

「探してやってもいいが……、報酬も無しにか」
「報酬ですか?兵長もそんなこと言うんですね。いいですよ、探し出してくれたら……、そうだな。兵長の言うことの1つや2つ、私が出来る範疇なら聞いて差し上げましょう!」
「……まあ、それでいい。お前はそこから動くなよ」
「はぁい!」

とりあえずリヴァイから見えている範囲を隈なく見やる。続いてベッドの掛け布団をばさっと広げて綺麗にする。
出てこない。

「ちなみにだが、本当は胸ポケットに入っているだとか、別のポケットに入っているなんてことは無いだろうな?」
「ないですよ!真っ先に探しましたよ!」
「チッ」

パンパンとポケットというポケットを全て叩くリオに舌打ちをしてリヴァイは床に膝をつき、ベッドの下の空間を覗く。すると、キラリと光る物が。ギリギリ手の届くところにあり、そのつるに指先をかける。

「これか」
「ありました!?」
「ベッドの下にな」
「やった!ありがとうございます!生きていける!」
「ちなみに、ぶっ壊れてるぞ」
「え゛」

まさに天国から地獄というようにくるくると表情を変えながらリオは壊れた眼鏡を持つリヴァイの手ごと両手で包み込み、またもやゼロ距離寸前で目を細める。

「嘘でしょ……。つまり……、ポケットに入れたと思ってたのに入ってなくて……、自分で踏んだうえに、蹴ったのか……?」
「……馬鹿だな」

ぷるぷると震えるリオ。ドジにも程があると呆れ返っていれば、絶望に染まった声が溢れる。

「ど、どうしよう……。本当に生きていけない……」
「? 予備は無いのか」
「これが予備だったんです……」
「……ゴーグルは」
「先日の壁外調査で壊れて新しいの注文したばっかです……」
「……もう一度言うぞ。馬鹿だな」
「ちょ〜っとした不幸が重なっただけです!」

視力を補正する物がなければ、この目も悪ければ頭も悪い部下は本当に生きていけないだろう。呆れを通り越して最早天才の域かと思うほどだが。

「ハンジに借りるのはどうだ」
「私の方が視力悪いんで、借りたところで裸眼のハンジさん並みの視力ですよ……」

言われて裸眼で歩いていた時のハンジの酷さを思い出す。そしてリオはそれ以上。1人でほっつき歩かせれば何をせずとも不運な事故で死んでしまうのではなかろうか。

「ゴーグルはいつ届くんだ」
「あと1週間ぐらいはかかるっぽいです……」
「眼鏡屋は」
「内地行かないと即日じゃ作って貰えません……」

完全にお手上げ状態。と言ったところでこのまま過ごさせてもリオが死ぬ前にその他大勢を盛大に巻き込んで何かやらかすのは容易に想像出来てしまう。
迷いに迷った末、リヴァイはリオの手を引いた。

「え?兵長?」
「エルヴィンに外出の許可を貰いに行く」
「なになになにどういう事ですか?」

引かれるまま、足元もおぼつかないがリヴァイについていく。

「眼鏡無しじゃあ、兵舎もまともに出歩けねぇんだろ?だったら今から内地行って作ってもらうしかないだろ」
「!」
「その代わり、さっきの報酬の件だが」
「はい!なんですか!?」

廊下を曲がったところで立ち止まり、見えていないだろうがとリオの目の前に人差し指を突き出す。

「1つ、予備はあるだけあった方がいいに越したことは無い。これからはもう5個ぐらい予備を持て。いいな?」
「了解です!」
「いい返事だ。そして2つ目だが」

中指をすっとたてて2を示す。それを下ろすとぐいっと顔を近付けた。裸眼で人の区別が付かないリオよろしくゼロ距離寸前まで。

「俺以外にここまで顔を近付けるのは金輪際一切許さん。たとえ眼鏡もゴーグルも無くて何も見えなくても、だ」
「え……っと、頑張ります?……いや待って今の意味って」
「察しろ」

ぶっきらぼうに言うと再び手を引いて歩き出すリヴァイに、リオは数秒の後に笑顔になる。

「兵長のそういうところ、大好きですよ!」
「……うるせえ。可愛いこと言うんじゃねえよ」

いつしか引かれていた距離は縮まり、手を繋いだまま2人は並んで歩く。
その姿はまさに、恋人同士。

ドジを重ねたその先に
(眼鏡作りに行くって……、リオ、また自分で壊したのか……?)(返す言葉もございません)(早く作らねぇとこいつが死ぬぞ。いろんな意味で)

Fin...

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