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□愛したさは、常に更新中
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自分を見下ろしながら照らす月。耳に届く風の音と、風に揺らされる木々の声。あと、野生の獣らしき唸り声。
目を閉じて、感覚を研ぎ澄ます。
怪しい空気は感じられない。未だこの場所は、とりあえずは安全なようだ。

「…………」

こちらに近づいてくる気配はない。少なくとも建物を囲む森の方から≠ヘ。
足音も立てずに、建物から彼女の背後に近寄る気配にリオは微笑んだ。

「なぁに、見張り、代わってくれるの?」

見張り台の隅で胡座をかいていたリオは、後ろを振り返る事なく声をかける。

「馬鹿言え。様子を見て回っているだけだ」
「素直じゃないなぁ……。他の子のとこ行ってきた感じがないじゃない。私に構ってほしくて来たんでしょ」

上がってこればいいものを、見張り台の柵を挟んでリオの斜め後ろに佇む様子に彼女はついにリヴァイと視線を合わせて、自分の隣をぽんぽんと叩き座るように促す。
ほんの少しだけ間を置いてリヴァイはリオの横に片膝を立てて座った。

「そういう所は素直でよろしい」
「……うるせぇ」

満足そうにニコニコすれば、リヴァイはそっぽを向いてしまった。その様子に本当に構って欲しかったのかとついつい可愛く思えてしまい、身体を傾けて肩をぶつける。

「特に異常はありませんよ〜、兵士長さま〜」
「やめろ気色悪い」
「ひどいなぁ。様子見に来たって言ったから報告してあげたのに」

こてん、と彼の肩に頭を乗せれば、リオの髪の毛が顔に当たって擽ったいのか、リヴァイは彼女の前髪をかきあげる。

「ちょっと」
「髪、伸びたな」
「切ってる暇がないからね〜。そろそろ結わないと危ないかなぁ。ハンジとお揃いにしちゃおっか」
「やめろ。絶対に」

それだけは見たくないとでもいった声音に声が漏れる。緊張の連続の中での、なんでもない会話に愛おしさを感じる。
巨人だけが敵という訳ではなくなった。自分たちと同じ人間が敵で、壁の中の王すらも敵とみなした。2人の少年少女を守るために、その手を血で汚す。それに後悔も罪悪感も無いほど人として擦り切れてしまっているけれど、こうして己を愛してくれる者が隣にいることがどれだけ幸せな事か。

「……なんかさ、大変なことになっちゃったね」
「仕方がないだろう」
「ま〜ね。1人は巨人の力を有して敵勢力に狙われています。もう1人は本当の王家の子で、こちらも敵勢力に狙われています、と来たらねぇ……。ただ巨人を相手にしてた頃がひどく懐かしい……」

生き残ることだけに必死になって、気付けばそこそこの地位に立っていて。この背中に背負うには多すぎる仲間の犠牲を糧にここまできた。
人を相手取ったこの戦いに勝った先に、人類の勝利があるのならば。
彼女たちは、どれだけでも手を汚すだろう。

「守るべきものが、増えすぎちゃったよ」

再編成された特別作戦班の新兵たちの顔を思い浮かべる。
たかが2ヶ月程度。されど2ヶ月程度。リオがリヴァイたちと過ごした年月に比べれば微々たるものだが、守るべき対象になるのには充分すぎる出来事が多すぎた。

「例えばさ、このままヒストリアが真の王として座したとしても、エレンが巨人の力を有している限りは守り続けなきゃいけないわけでしょ?それは、私にとっても、ハンジにとっても、エルヴィンにとっても、リヴァイにとっても、同じこと」

リオの言葉に、リヴァイがわずかに反応を見せる。表情はうかがえないが視線だけで見上げて、何か言いたそうな雰囲気を感じ取る。

「なにか不満でも?」
「……俺はリオさえいればそれでいい。お前を守れれば、お前が生きていれば、他に望むものはない」

滅多に口にしないリヴァイの気持ちに、リオは一瞬呼吸を忘れる。
嬉しい。のちに、少し呆れ。

「素直……、だけど素直じゃないというか……、嘘が下手というか……」
「嘘なんてついてねぇぞ」
「あーそういう意味じゃなくてさぁ。そのはちゃめちゃに嬉し恥ずかしな言葉が嘘じゃないのは分かってるけど……。残念な事に、リヴァイの心の中には私1人しかいないわけじゃないってところがさ、うん」

リオを守るとか生きててほしいとか、それは紛れも無いリヴァイの想い。だけれども、それとは別に本心がある。そのことを隠せているつもりのリヴァイは本当に不器用だ。

「はっきり言え」
「私のことは好きで好きで堪らないけど、守りたいと思ってるのは私のことだけじゃない。そこにはもちろんエルヴィンやハンジが入ってるし、エレンたち104期生だって、他の兵士たちのことも入ってる。そうでしょ?」
「…………」

図星の沈黙と捉えて、さらに身体を預ける。おそらくリオが全体重をかけてもそこから微動だにしないであろうリヴァイは図星、という顔から何か考え込むような顔へと変わった。

「それでも、俺が好きだと思うのは、愛したいと思うのは、リオだけだ」
「っっっっ!!も〜!よく恥ずかしげも無くそんなこと言えるね!知ってるから!!」

どこかむず痒い気持ちになりながら、突然の愛の告白に嬉しさが爆発してリヴァイに勢いよく抱き着く。ぎゅっ、と力を込めて彼の温もりを全身で感じる。幸せ以外の、なにものでもない。

「リオだってさんざん恥ずかしげもなく色々言ってたじゃねぇか」
「リヴァイみたいに真っ向からじゃないでしょ!どんなに想ってたって言えないってば……」
「ほう。じゃあ今から言ってみろ」
「どんな無茶振りなのさ」

パッと顔を上げれば、先程まで見向きもしていなかったリヴァイと視線が合う。半分冗談、半分本気、といった眼でリオを見つめる。

「え……、ちょっと、待って……。本気?」
「たまにはいいだろう」
「リヴァイだってたまにじゃんか……!そんな俺はいつも言ってるみたいな雰囲気出されても……!」
「言えないか?」

あいも変わらずリオを離さないリヴァイの視線に言葉が詰まる。完全にリヴァイのペースに持っていかれて、抱きついたまま為すすべのない状態に陥った。

「い、言えば、いいんでしょ……!言える……、うん、言える、はず……」

尻すぼみになる言葉に我ながらこういうのには弱いなと実感しながらリオは仕切り直してリヴァイをまっすぐ見つめ返す。

「……私も、リヴァイしか」
「あの」
「あんにゃぁあああ!?」
「チッ」

愛せないよ、なんて言葉は背後からの声によって遮断された。完全に2人だけの世界だったリオは突然の介入者に驚き抱き着いていたリヴァイの身体にさらにしがみ付く。そのリヴァイはせっかくの機会を逃したと言わんばかりに舌打ちをした。
声をかけた当の本人……ミカサは心から慕う先輩とゆっくり話す機会を奪われたとリヴァイを睨みつけていた。

「ミ、ミカサッ……!?」
「交代の時間です、リオさん」

鋭い眼光から一転、ふんわりとした雰囲気を纏ったミカサがリオに告げる。が、すぐにまたリヴァイに敵意……エレンのことも含めて気に入らないという意味で……を向ける。

「ところで……、兵士長は、こんなところでなにを……?」
「俺がリオと一緒にいると都合でも悪いのか?」

大人気なく喧嘩腰で聞き返すリヴァイ。まさに一触即発の空気にリオは焦る。もし拳で語り合うことにでもなってしまったら自分に止める術は、というかここにいる全員がかりでも止められない。

「あっははは、ちょっとね、人類最強の下手くそな嘘をね!」
「嘘じゃねぇって言ってんだろ」
「リオさんを困らせるの、やめてもらえますか……?」

いや困ってるの2人のせい……、とはとても言い出せずリオはリヴァイから離れて立ち上がる。衣服をはたいていると、リヴァイも立ち上がり先に見張り台を降りた。

「も〜。なんかごめんね?ミカサ。じゃあ見張りよろしく」

自分よりも背の高いその頭を優しく撫でれば、ミカサは嬉しそうに目を輝かせた。

「はいっ……!」

元気の良い返事に満足してリオはリヴァイの元へ駆け寄る。リヴァイはどこか不服そうな顔だった。

「私絡みになると大人気なくなるのやめた方がいいと思うよ」
「なら例え新兵、同性だろうが不用意に頭を撫でるな」

言わせるつもりだったリオの言葉が聞けなかったことと、リオがミカサの頭を撫でたことにどうやら拗ねている様子のリヴァイ。

(可愛い〜けど、面倒くさいなぁ)

自分が愛した人とは言え、歳下の、まだ子供と呼べる相手にこれだけ分かりやすく嫉妬を重ねられると、どうも気後れする。
が、長年隣にいるからこそ対処法は分かるし期待させた分は答えるしかない。

「……大丈夫だよ、私は、リヴァイしか愛せないから」

ぐいっと兵服を引っ張り無理矢理体勢を崩させて柔らかい黒髪に触れる。ついでに自分と同じ高さまで落ちてきた唇に己のを重ねる。

「満足?」

一連の流れに歩みを止めてしまったリヴァイを振り返り聞いてみるも固まったまま動かない。不意をついた時のこの表情は普段からは想像も出来ない分、リオは満足していた。

「どうしたの?惚れ直しちゃった?」
「っ〜!お前なぁ……!」

期待以上のあれやそれに、リヴァイはきっとリオしか見たことのない顔をする。立ち止まっていた場所からリオに歩み寄り、今度はリヴァイの方から唇を奪った。

愛したさは、常に更新中
(うん、ていうか、ナニか当たってる)(お前の方から仕掛けてきたんだろ)(そんなつもりなかったなー。……優しくして、ね?)(無理だな)

Fin...

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