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□その笑顔が見たくて
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いつもの兵服とは違う、黒のジャケットに袖を通しウォール・ローゼの街並みを流しながら目的の場所を目指す。すれ違う人々は有名人≠フ顔を見るなりヒソヒソと話し始める。
その声になかなか大きな舌打ちを残してリヴァイは裏路地へと入っていった。
知る人ぞ知る、といった感じの店が立ち並ぶ裏路地のとある店の扉を開ける。

「いらっしゃい。あら兵長さん」

人柄の良さそうなおばあさんがリヴァイの顔を見て満面の笑みを見せた。

「久しぶりだねぇ。元気そうで何よりだよ」
「婆さんもな。いつものはあるか」
「あるよぅ。ちょっと待っててね」

座っていた椅子からゆっくり立ち上がるおばあさんが奥へと消えていく。リヴァイはこの茶葉屋の常連だが、前に来たのは季節が変わる前のこと。そうじゃなくとも不定期に来店するリヴァイのために、彼が好む茶葉を棚に並べる分とは別に取ってくれているのだ。

「…………」

久しぶりの店内は季節が変わった事もあり品揃えが変わっていた。ぐるりと見渡せば前回来た時には無かったある物≠ェ店の隅に陳列されていた。

「お待ちどうさま。いくつ買っていくんだい?」
「全部だ。ところで、アレはなんだ」
「まいど。んん?ああ、クッキーかい?最近ね、孫がよく遊びに来てくれてねぇ。その度にうちでクッキー焼いていくんだけど、これがまた近所の人たち評判が良くて良くて。どうせなら店に置こうかってね」

孫の事が可愛くて可愛くてしょうがないといった感じのおばあさんの話を聞きながらクッキーに視線を落とす。

(アイツが好きそうだな……)

脳裏に浮かぶ笑顔にふっ、と肩の力が抜ける。

「これも頼む」
「あらまあ、兵長さんが茶葉以外を買うなんて珍しいわねぇ。もしかして恋人さんでもいるのかしら?」
「……まあ、そんなところだ」

会計の準備をしつつ言ったリヴァイの返答におばあさんは眼をキラキラさせてお節介を焼く気満々の表情を見せた。

「あらあらまあまあ!きっと可愛い人なんだろうねぇ!ふふふっ、じゃあその恋人さんのためにクッキーはおまけにしとくよ。今度連れてきてね」
「……どうも」

いくつかの茶葉とクッキーが入った紙袋を受け取ると、お幸せに〜なんて声を背に茶葉屋を後にした。
来た道を戻る様に兵舎へ向かう。クッキーを渡せば喜ぶであろう彼女の顔が脳裏にチラつく。気づけば心なしか足早になっていた。
ここには彼女が好む店が沢山ある。パン屋に雑貨屋にブティックに本屋。彼女とこの通りを歩くだけで、1日なんてあっという間に終わってしまう。リヴァイは彼女に着いて行くだけだが、それに退屈を感じないというだけで彼がどれだけ彼女を想っているかうかがえる。
調査兵団兵舎正門をくぐれば、出掛ける時には確かに施錠した自室の窓が開け放たれカーテンが風に揺れていた。
またか、と半ば呆れながら聞こえるはずも無いのにその名前を呼んでいた。

「リオ」

まるでその声に反応するかの様に、窓から彼女は姿を見せた。

「あっ、リヴァイー!」

大きく手を振りながら声を大にして自分を呼ぶ恋人に思わず笑みが零れてしまう。

「お土産、ある〜!?」

その問いに紙袋を掲げて見せれば、遠目からでも分かるほどの満面の笑みを浮かべる彼女。

「仕事、終わらせるね!!」

仕事なら人の部屋じゃなく自室でやれ、という文句は後で言うことにしてリヴァイは彼女が待つ部屋へと向かう。

帰り道、幾度となく脳裏に浮かんだリオの笑顔が見れると確信して。

その笑顔が見たくて

Fin...

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