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□貴方しかいない
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「よぉしエレーン!準備終わったから次のぉ……って、あれ?」
「どうした」
「エレンが、というかエレンとリオが見当たらないんだけど……」
「……チッ。俺が探してくる。お前らはここで待ってろ」

勝手な行動をしているわけではないが、目を離せばふらふらと何処かへ行き探す手間を増やさせる部下に舌打ちをして、リヴァイは自らエレンとリオの2人を探しに出る。
わざわざ城の中に戻っていたら自分か誰かが気付くだろうと、まずは城周りを壁沿いにそって歩く。
日陰に入ると、一変して気温が下がり風が心地よい。一瞬足を止めて、風を全身で受け止めてから再び歩き出す。
少しすると、柱の向こうから伸びる脚が見えた。

「アイツら、こんなとこに……」

ガッガッと大股で近付けば予想してない光景が。

「は……?」
「あっ、兵長。あの、リオさん、」

起こしても大丈夫でしょうか?という投げかけを最後まで聞く事なく、リヴァイはエレンの胸倉を掴んだ。もちろん、エレンの肩からリオの頭が落ちない程度の強さで。

「なんでテメェと寄り添ってリオは寝てやがる……」
「いやっ、オレも急に寄りかかられて何が何だか……!」
「……あくまでも他意はねぇと」
「(他意……!?なんのことだ……!?)あ、ありません!」

パニックになりながらほぼ恫喝のリヴァイの言葉に答える。しばらくしてリヴァイは掴んでいた胸倉を離し、ほどなくして未だに安眠中のリオに一瞥くれてやると、そのまま抱き上げた。

「エレン、テメェはそのままハンジの所へ行け。準備が終わった。そしてエルドたちに伝えろ、俺が戻るまではハンジの指示に従えと」
「は、はい!」

全速力でその場を走り去るエレンにまたもや舌打ちをしながら腕の中で眠るリオを見る。

「……ったく。人の気持ちも知らないで」

リオを抱き上げたまま城の中に戻るとリヴァイはそのまま自室へと足を運ばせた。そして、ベッドの前に立つなり。

「でっ…!!!!」

鈍い音と共にリオの少し低い声が漏れる。どうやらリヴァイにベッドの上に投げ捨てられ壁で頭を強打したようだ。

「よぉ、目覚めはどうだリオ」
「げっ、リヴァイ兵長……。その、最悪ですのでもう少し寝てたいです」
「ふざけてんのか」

勢いよくベッドに腰を掛ける。その反動で少しリオが跳ね上がった。内心、さすが上層部用のベッドは違うなと考えてしまうあたり命知らずだ。

「お前……、なんでエレンなんぞの肩を借りて居眠りこいてた」
「え?あ、そうか……あそこに行ってから思わず寝ちゃったのか……。えっと、昨日一睡もできなくて」
「……その寝不足は今日、俺を避けまくってる事に関係があるのか」
「え゛っ」

気付いてたのかとまた冷や汗が出てくる。しかも今の反応で確実に避けていたことがバレたであろう。何をされても文句は言えない。

「そういえば昨日、報告に来なかったな?どういうつもりだ」
「っ……、あの、昨日はその、眠くて」
「でも一睡もしてないと」

(墓穴掘ったー!!!!)

完全に逃げ場……会話的にもベッドの上の狭さ的にも……を失ったリオは何も言い返せずに口をパクパクさせるしかなかった。

「……はぁ。俺が何かしたか?お前に避けられるようなこと」
「それ……、は」
「言ってくれれば直す……、努力はしよう。言わねぇと始まらないだろ」

あくまでもリオに対して真摯な態度を取ろうとするリヴァイに、感情が入り乱れる。

(なんなの……ペトラに迫られてたじゃん……本当はペトラの方がいいんじゃないの……?私のこと、どう思ってんの……)

抑えきれない涙が頬を伝う。それを見たリヴァイは目を見開いた。まさか泣かれるとは思っていなかったため、その姿勢に焦りが出始める。

「お、おい、何を泣く事が」
「だって、昨日、報告に行こうとしたらっ、兵長の部屋からペトラの声聞こえてっ、それで……、ひっぐ……、ペトラに、迫られてたじゃん……!!」
「……………………………………は?」

長い沈黙の後に絞り出せたのはそれだけだった。リオは既に号泣しており収拾が付かない状態だ。

「お前あれ聞いてたのか……」
「わたし、私じゃ、物足りないっ、とか、ペトラが、私じゃダメなんですかとか……!」
「あー、待て。少し待て。頼む」

額に手を当ててどうしたものかという雰囲気を醸し出すリヴァイにリオは疑問を感じる。言い訳があるならすればいい、そして自分を捨てればいいだけの話なのに、と。
斜め後ろからではリヴァイの表情は窺い知れないが、何か焦っているのは間違いなかった。

「……なに」
「昨日お前が聞いたのは、そういう意味≠カゃない」
「じゃあどういう意味なの……」
「あれは、ペトラが俺たちに気を使った結果だ」

***

『夜分遅くに失礼します。あの、兵長』
『どうした』

リオが報告に来たのだと思っていたリヴァイは姿を見せたペトラに多少驚きながらもペトラの言葉に耳を傾けた。

『エレンのお目付役のことなんですが……、本当にリオのままでいいんですか?全員で話し合ったんですけど、その、こんな言い方は失礼かもしれませんが兵長、リオに構ってもらえなくて物足りないんじゃないんですか?』
『……いや、お前はなにを言ってる?』

リオに関係は隠したいと懇願されていたためリヴァイも必死に隠していたつもりだがペトラのこの言いようにまさかと思う。

『兵長とリオの関係なら、私たち4人全員承知してます。ただ隠したがってる様に見えたので黙ってましたが……。ですので!私がリオの代わりにお目付役になれればと思ったのですが……、私じゃダメなんでしょうか……?』
『……あれは俺の判断だ。ペトラが肩代わりする必要はない。それに……、お前らも俺が私情を挟むの嫌だろう』

***

「えっと……、え?つまり……?」
「つまり俺は昨日ペトラに迫られていたわけではないし、何より俺たちの関係はあいつらにはバレてる」

欲しかった真実と欲しくなかった現実が同時に押し寄せてきて叫びたくなる。

「じゃ、じゃあ、兵長は別に、ペトラに心変わりしたわけじゃ……」
「あるわけねぇだろ。だいたいネガティブな方向に飛躍しすぎだ」
「今日の朝ご飯の時ペトラが隣に座ってたのは……!?」
「リオが戻ってくるギリギリまでその話をしてたからだ」

(全部……、私の勘違い……?)

またぽろぽろと涙が零れ落ちる。今度は安堵感からくる涙。自分はなんて愚かな事を考えてしまっていたのだろうという後悔からの涙。

「だいたいな、俺がお前以外を選ぶと思ってんのか?」

頬に手を添え、親指で優しくその涙を拭う。覗き込む様にリオと視線を合わせる。その瞳は巨人と対峙しているときのそれとは程遠い、優しいもの。おそらく、それはリオにしか見せない、リオしか見たことのないリヴァイの表情。蒼穹色の瞳にぼろぼろと泣き崩れた己の顔が映る。しばらくその蒼に見とれていれば、リヴァイが痺れを切らした様にリオの口を塞いだ。

「んっ」

いきなりの事にその勢いで押し倒されてしまったリオは無抵抗でリヴァイを受け入れる。

「ん、ふっ……、へい、ちょ……っ」

流石に息が保たなくなった所でその厚い胸板を叩けばようやくリヴァイは唇を離した。自分とリヴァイを繋ぐ銀色の糸が、昼間だというのに妙な艶やかさを演出する。

「何度でも言うが……、俺にはお前しかいない。だから、勝手に俺の元を離れようとするな、リオ」
「うぅ……、はいっ……」

その言葉にまた涙が溢れでてくる。そんなリオを引き起こすとリヴァイはぎゅっと抱きしめて頭を撫でた。まるで、たった半日程自分から離れていたリオとの距離を取り戻すかの様に。

(あぁ……、そんなこと言ったら、私だって、)

貴方しかいない
(だが、それはそれとして俺を避けまくっていた事とエレンなんぞに無防備な寝顔を晒した事に関しては躾≠ェ必要だな)(え)(今日は……、いや、今日も=A一睡も出来ないと思えよリオ)

Fin...
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