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□貴方しかいない
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『こいつを監視するのは全員の仕事だが……、そうだなその中でもエレンに付きっきりになるお目付役がいるだろう。お前に任せる、リオ』

***

「しかし、ハンジさんも飽きないねぇ。エレンは身体大丈夫?」
「はい……、とりあえずは」

巨人の力を有するエレンを使っての実験にハンジは大喜びしていた。もちろんその実験にはリヴァイおよびリヴァイ班の全員も付き添うわけだ。

「あの……」
「ん?」
「オレのためなんかに、すいません」
「お目付役のこと?いいよいいよ。兵長に任せられた以上断ることも出来ないし、下手に暇してるとハンジさんに捕まるから」

旧調査兵団本部の地下室、鉄格子越しに後輩の申し訳なさそうにする顔を見てリオはへらへらと笑った。

「いや、それもなんですけど……」
「オレが寝るまで待ってなきゃいけない〜ってこと?そ〜思うなら早く寝て欲しいなぁとは思うけどね」
「う゛っ」
「……まぁ、無理もないと思うよ。私だったらまず寝れないね。いや体質的に寝ないと簡単に体調崩すから無理してでも寝るけど」

ギシッ、と椅子を軋ませ軽く舟を漕ぐ。巨人の力はまだうまく自制できず、生殺与奪はリヴァイの手にある。これで地下室で素早くぐっすり安眠しろという方が難しいだろう。

「というかね、私の体質を知ってる癖にそういう指示出してくる兵長もどうかと思うんだよね。どういう意図で私をお目付役にしたか知らないけど」
「その、ずっと思ってたんですけど、リヴァイ班の中でも特に、リオさんと兵長って、仲がいいというか、距離が近い?っていうか」
「んんんんんん気のせいでは」

若干顔が引き攣りながらもエレンの言葉を否定する。こんなことペトラ達に聞かれたら信頼関係が破綻してしまう。

「エレン今日元気だね……、あれだけハンジさんに振り回されたのに」
「目が冴えちゃって」
「子守唄歌ってあげようか?」
「大丈夫です!寝る努力をします!おやすみなさい!」

バッと布団を被るとそのまま寝る体勢に入ったエレンを黙って見守る。この城に着いてから毎日エレンが寝るまでこうして付き添っているが、日に日にリオの睡眠時間は削られていく。

(この後兵長に報告しなきゃいけないし……、壁外調査当日寝不足で遅刻しそう)

リオ自身もうつらうつらとなりながらエレンから寝息が立つのを待つ。
こんな少年が人類の命運を握っているなど、誰が思っただろうか。審議所では兵長が派手に躾≠したが、エレンがもともと調査兵団を志願していなかったらどうするつもりだったんだろうか。

(ていうかハンジさんも言ってたけどやりすぎたよねぇ、普通に。見てた私が声出ちゃったし。てか、あの場にいなければお目付役私じゃなかったりしたのかな)

あの時色々見てたのはお前だけ、よってこの中ではお前が一番こいつをよく知っている、適任。みたいな極端な思考回路があることを鑑みてもその可能性は高い。そもそもあのリヴァイが彼女を誰かに付きっきりにさせていること自体がリオにとっては珍しく感じていた。

「おっ」

すぅすぅと寝息を立てるエレンを確認したリオは静かに立ち上がり、そのままリヴァイの部屋へと向かった。早いとこ簡単な報告を済ませて、今日はすぐに寝ようと決意して石段を上がっていく。そして、リヴァイの部屋のドアをノックしようとした時。

「……リオ……、構って……物足りないんじゃないんですか?」
「!?」

ぎょっとした。夜も深いこの時間に、なぜリヴァイの部屋からペトラの声が聞こえるのか。ドアの前に掲げた右手が震える。リヴァイも何か話しているようだが、部屋の奥にいるようでリオの耳には届かない。

「……私じゃダメなんでしょうか……?」

(物足りない?私じゃダメ?まさか、ペトラに兵長との関係バレた……?)

リヴァイとリオは先程エレンが言った通り、想い想われの関係だがそれはあくまで秘密事項でそれはリヴァイ班の仲間であろうと伏せていることであった。しかし、まさか。

「っ……」

完全に脱力し、極力音を立てないようにリオは自室に戻る。その頭の中はすでにぐちゃぐちゃだった。

(いやうん、ペトラが兵長のこと好きなのはなんとなく分かってて、兵長と関係持ったけど……、まさかこんなしっぺ返しくらうなんて。ていうか、ペトラも思い切ったな……。どこでバレたんだろう。エレンがあんなこと言うぐらいだから無意識だったんだろうな。……兵長は、ペトラのあの言葉になんて返したのかな)

ぼすん、と弾力ないベッドに倒れこむ。いっそ眠ってしまおうと瞼を落とすが数分後。

「寝れない……」

***

(結局一睡もできなかった……)

だるすぎる身体を引きずって一階へと降りる。朝食の準備は既に整っていてあとは全員揃うのを待つだけだった。

「おはようリオ……って、すごい顔してるな」
「おはよエルド……。いや、その、一睡もできなくて」
「一睡も?お前がか?」

隙さえ見つければ寝てる姿を見ているエルドにとって、壁外調査時以外で睡眠を取らないリオなんて最早別人の域だった。

「うぅ……、エレンの分は……?」
「これだ。本当に大丈夫か?」
「大丈夫にするしかないでしょ……」

そう言い残してエレンの朝食を手に地下室へ降りようとした時。

「リオ」

リヴァイに声を掛けられて思わず身体が震える。昨日の今日でどんな顔すれば良いものかと冷や汗を垂らしながら首を回す。

「お、おはようございます、兵長……」

それだけ言い残してリオは地下室への石段を駆け下りた。

「?」

少し素っ気ない態度にリヴァイは不信感を覚えながら、リオが出て行った部屋に入る。
リオといえば、たった一言交わしただけで冷や汗だらだらたった。

(無理でしょ……こんなん……地獄か……)

カツンカツンと響くブーツの音に重なるように布団特有の擦れる音が響く。

「はぁ…………。エレン、おはよう」
「んっ……、リオさん……。おはよう、ございます」

リオの足音で目が覚めたのか半分寝ぼけながら上体を起こすエレンを微笑ましく思いながらしっかり覚醒する瞬間を待つ。
両の手で己の頬を叩いたエレンはいつもの笑顔をリオに見せた。

「よし!朝ごはんですね!」
「うん。しっかり噛んで食べるんだよ」

ついつい母親の様な事を言ってしまう自分に少しばかり嫌気を覚えながらエレンに朝食を渡す。踵を返して一階に向かう足取りは重いばかりだ。だが歩を進めれば近づいていくばかりで逃げようはなかった。

「おまたせしました」
「揃ったな。ペトラ」
「はい。では、いただきます」

ペトラの声に合わせて全員で合掌。各々で食べ始める。

「……」

パンを一口放り込んだところでリオは気付く。

(空いてたからここ座ったけど、なんでこんなに兵長と離れてるの……?なんで兵長とペトラ隣に座ってるの?てかこんな状態で食事が喉を通るわけがない……)

もきゅもきゅと永遠とも思えるほど咀嚼を続けた末に水で流し込む。それだけの事が苦しいし疲れる。

「無理だ……。エルド、食べる?」
「やっぱ体調厳しいか?」
「いや……それはどうにかする……、けどちょっと喉通らない……」

隣に座っていたエルドに話しかければ全員に目を丸くされた。そんなに私が体調崩すのが珍しいかと言ってやろうと思ったがリヴァイと目が合いその気も無くなる。

「食えねぇならエレンに持っていってやれ。どうせ今日もあのクソメガネに振り回される」
「はい……」

リヴァイの言葉におとなしく返事をして数分前に戻ってきた道を再び進む。溜息しかでない。単に心配してる風に見えたがあの2人が並んで食事を取っている光景が最早自分よりもお似合いなんじゃないだろうかと落胆する。

「死にそう……」

***

そこからと言うものリオの見るものはだいたい地獄だった。エレンの巨人の力についての検証とそれに対するハンジの反応もそうだが、なによりペトラとリヴァイが一緒にいるだけで昨夜の言葉を思い出してしまって涙が出そうになっていたし、思わずリヴァイを避けてしまう。しかもペトラは普通に話しかけてくるときた。

「ぐすっ」
「リオさん?」
「ん!?なに!?」
「ハンジさんが次の準備に時間がかかるから、少し休憩してって」
「あ、じゃあこのお城の反対側行こうか。時間帯的に日陰だし座れる場所もあるし」

涙ぐんでるのを見られたかと思ったが、そのままエレンと一緒にぐるっと城周りを半周。直射日光から逃れると一気に涼しく感じる。座る様に促して、それからエレンの横に腰を下ろす。

「リオさん、体調大丈夫ですか?」
「う〜ん……まぁ……」
「リヴァイ兵長に言って休ませて貰ったほうが」
「それはいい」

顕著に少し不機嫌な態度が出てしまい反省するが、とにもかくにも今はリヴァイの傍にもペトラの傍にもいけそうは無かった。
わさわさと風が2人の髪の毛を揺らす。眠気に誘われながらリオはその風を感じていた。

「……あの、リオさん。昨日オレが言った……」

コツン、という音と共に肩に乗った重みに視線を向ければリオがエレンの肩に頭を預けて眠っていた。

「……マジか」

起こすべきかどうか。とりあえず準備が終わらないことにはやる事がないので、エレンはひとまずこのままリオに肩を貸す事にした。

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