金カム

□涙に誓う
3ページ/14ページ

●●●●
「お気に召しましたかな」

 突然背後からかけられた声に驚き振り向くと、落ち着いた雰囲気の男性が立っていた。緩く弧を描く口元には上品な髭があり、艶やかなオールバックの髪が彼の魅力を際立たせている。

「すみません、大切な商品を無断で眺め回したりして」

 冷やかしに来ているという罪悪感からか私は咄嗟に謝罪したが、その人は笑みを深くして事も無げに言った。

「いいのですよ、お好きなだけご覧になってください。どの人形も美しいでしょう」

 そう言われ改めて人形を見ると、確かに目を惹かれる。こんなに美しければ多少値は張ってもすぐに買い手がつくのではないだろうか。
 そんな私の疑問が顔に出ていたのか、男性は朗々とした声で話を続けた。

「プランツドールは少し変わった性質がありましてね、自分が気に入った相手でないと世話をさせてくれないのです。波長の合うお客様に巡り会えたとしても、買ってもらえなければやがて食事さえ拒否をして枯れてしまう」

 その話を聞いて合点がいった。ここにいる人形たちはまだその相手に出会えていないのだろう。しかし、またしても疑問が浮かび上がる。

「あなたはプランツドールに気に入られたりしないんですか」

「まさか、私はここの店主兼ただの餌やり係ですよ」

 小さく笑いを漏らすその人は鶴見と名乗り、親切にも店の案内や人形1つ1つの解説をしてくれた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ