想いの系譜(とうらぶ長編)


□人とは
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 人とは、何と愛しい存在か。来る日も来る日も行き交う人を眺めてはそう思った。
 人とは、実に儚いものだ。ついこの間産声を上げたかと思えば、すくすくと成長し、やがては老いて死んでいく。その短い生涯の中で多くのものを遺していく。一つとして無駄な命などない、何と輝かしい存在か。
 人とは、とても脆いものだ。その限りある時間が病気や怪我で途絶えてしまう。善人も悪人も、大人も子どもも老人も、一切の区別なく残酷なまでに公平に死は訪れる。
 だが、人とは強く優しいものだ。自分や大切な人が苦しんでいれば、生きたい、生きてほしいと願い、あらゆる手を尽くして祈りを捧げる。私はその思いに応え、ほんの少し手助けをする。そうすれば、あとは自分の力や周りの支えで人は生きて命を繋いでいく。その連鎖の何と美しいことか。
 人とは、何と愛しい存在か。私自身が人の身を得て、人の繋いできたものを守れると知った時、本当に嬉しいと思った。愛しいものに近づける、愛しいものを守る手がある。そのことが、ただただ嬉しかった。
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