倉庫@
□ある放課後の零晃
1ページ/1ページ
雪が降る日の軽音部の部室は、いつもより割増で寒く、酷く薄暗い。
今日は軽音部もUNDEADも活動がなく、葵兄弟や羽風、アドニスの姿も見えない。まあ、活動日であっても揃わないことの方が多いが。
そんな中、1人の訪問者……__といってもそれは部屋の主の次にはこの部屋を利用している者だ……__がやってきて、異様ながらもどこか部屋に馴染み始めてしまった棺桶をげしげしと足で蹴った。
「おい起きやがれ、吸血鬼ヤロー!!もう放課後だぞ!」
蹴りながらキャンキャンと吠える男の名は大神晃牙。本人は自分のことを"孤高な一匹狼"と称しているが、全くもって説得力がない。これでは子犬と変わらないというものだ。
…さて、そんな望んでいない子犬のアラームによって、彼のことを"わんこ"と呼ぶこの部屋の主が大きな欠伸と共に棺桶から顔を覗かせた。
「これ、わんこ。我輩の大事な寝床をそう乱暴に蹴るでない。」
まだ眠そうにしている彼の名は、朔間零という。
このアイドル育成学院の中でもトップクラスの実力を持ち、自らを吸血鬼と名乗るトップクラスの変人である。
「それに我輩を起こすのは日が落ちてからにしておくれと何度も言っておるじゃろう。まだ外は明るい、我輩はもう一眠りするとしよう…。」
そう言ってまた棺桶の中に戻ろうとする零を、晃牙は全力で阻止した。
しかし、繰り返すようだが今日は部活もユニットも活動日ではない。
つまり零が今起きなければならない理由も、晃牙がここに来なければならなかった理由も、本来ならば存在しない。
なら、晃牙はどうしてここに来たのか。
「ん〜……しつこいぞ、わんこ。ほれ、ボールをやるから一人で遊んでおいで。夜になったら構ってやろうぞ。」
「夜までなんて待てるかよ!……せっかく、2人きりなのによォ。」
言いながら声はどんどん小さくなり、耳まで真っ赤になる晃牙を、零は心の底から愛しいと思う。
ついでに絶対に寝かすまいと棺桶の蓋を握っていた晃牙の手からも力は抜け、零がその気になればいつでも閉められるのだけれど、せっかく可愛いことを言ってくれたのだからと、零は1度蓋を開ける。
すると晃牙は、見えない耳をぴんと立て、同じく見えない尻尾をブンブンと振って喜んだ。黄金の瞳をきらりと輝かせ、零が出てくるのを今か今かと待っている。
何と可愛らしい事かと微笑んだ零は晃牙の腕を引き、自らが入る棺桶に誘い込む。驚いた晃牙は声も出せず、その間にがっしりと抱きしめて晃牙を捕まえた零が、耳元でそっと囁いた。
「夜が来たら、たっぷり甘やかしてやろう。それまで吾輩の抱き枕になっておくれ。」
低く甘い声音に晃牙の体温が一気に上がったのを感じて、零はふらと笑いながら眠りについた。
晃牙がここに来た理由。
それは大好きな恋人と愛溢れる時間を過ごすため、だ。