偏愛しりーず

□歯
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矯正してる歯が好き。

でも、歯並び悪い歯のほうが好き。

あなたの歯を舐め回したくて

でもこんなこと言えなくて
我慢してる。

小学生のとき、先生の歯が好きだった。
少しずれて、牙みたいになっている歯。
少し歯並びが悪い、笑うと少し怖くて
私の絶好のタイプだった。

中学生のとき、友達の歯が好きで
抜けた歯を「ちょうだい」なんて言ったら
中学生の3年間、友達がいなくなった。

みんなからは「頭も顔もいいのに」

なんて言われていた。

私の歯はあまり好きではない。
歯並びが良くて、面白くないのだ。

高校生の私は受験が上手くいって
世間的には優等生学校なんて
言われる学校に進学した。

「サナちゃんって言うんだ。」

「あ、う、うん」

矯正してる歯

「私。ミナ、仲良くしてくれる?」

「うん、よろしく」

少し微笑む。その綺麗な顔。
白い肌に透き通った輪郭。

「へへ、なんかぎこちないね」

笑うときに手で口を隠す。
その仕草は美しい。でも、私は歯が見たい。

「ミナちゃん」

「ん?」

「笑うとき、口隠さないでよ」

「え?なんで?」

「‥なんとなく」

「え?なにそれえ、へへ、面白いなあ」

また少し笑う、少し口を隠す。
笑い方が可愛い。声が綺麗。

こんな私を、受け止めてくれる。

あなたの歯、ちょうだい。

言えずに、練習した笑顔で笑い返した。

___

手を描いた。
その横には本物そっくりな手の模型がある。
歯を手で触っている単純なイラストだ。

暗い部屋にペットとふたり、

「ねえ、わんちゃん」

「‥っ、っ‥!」

「歯、みせて」

「‥!」

「あーって‥して」

このわんちゃんにもあきてきた。
私が欲しいのは、私が欲しいのは

「つまんないなあ。」

「っ‥え?」

「‥ん、薬あげる」

「‥!」

あの、ミナちゃんの歯。いや、
ミナちゃんの体、ミナちゃん自身がほしい。

「新しいおもちゃ見つけちゃった。」

「‥‥!?」

「へへ、お友達に譲ってあげよう」

薬をあげたこのわんちゃんを寝させて
父さんに『もういらない』とメールをした。
返ってきた返信は
『売るから写真を撮っておいてくれ』
その冷たいひとこと。
高校はどうだくらい聞いてよなんて

あんな人だもんな。

『友達、ペットにする。』

そう連絡したのを最後。
画面を閉じた。

ミナちゃんの体を、友達の体を欲すなんて
私でもわかってる。でも、耐えられない。

「サナ?」

「ミナちゃん、可愛い」

「へへ、それより!呼び捨てしてってば!」

「じゃあ、みーたん」

「みーたん!?可愛い!じゃあそうやって呼んで!」

「うん、みーたん、すき。」

体つきだって、何が好きかだって、
貧血気味で少食で好きな食べ物はレタスで
何時にお風呂に入って、何時に寝て
寝る前にストレッチすることも知ってるし
日曜日の部活がない日は
駅前のジムに行くことも知ってる。
疲れやすくて、熱しやすくて

生理の周期も、今日がきっと多い日。

私は異常なんかじゃないし
元彼とキスしたのは
前の学校の教室のことも知ってる。

「お腹、大丈夫?」

「うん、大丈夫、よく気が付いたね」

「‥なんか痛そう」

「へへ、ありがとう」

生理の血だって舐めたいと思えば
もちろん、あなたの体が欲しいわけで。
体液も精液も、血も、吐息も
すべてが欲しいの。とくに、あなたの歯を。

あなたの歯を絵に描いて

あなたの歯をながめていたい。

「つっん‥!?」

「‥あ、っ、みーたん‥」

「な、なにして‥キス‥!?」

「‥‥」

「変なことしないでよ!女の子同士だし‥こ、恋人でもないのに!」

「あ、あの、みーたん、私、」

「‥ち、近寄らないで」

「‥‥」

「ひとりにし‥んぐっ‥!?」

「我慢、で、で、できない、」

抵抗する手を抑えて
抵抗する脚を痛いくらいに脚で抑える。

舌を入れて矯正器具が
ついている歯を舌でなぞる。

もうガタガタではない。でも、好き。

「やだ、友達‥でしょ、ねえ、サ‥ナ」

「友達‥以上になるの」

「んっ‥えっ、はぁ、くる、し‥」

「私の‥ペット‥へへ」

「‥っ!?」

「これで、私のもの‥」

いつもの薬を飲ませる。
歯の矯正器具はあと半年で取れるらしい。
あと、半年、楽しむことができる。

「愛してるよ、愛してるよ、みーたん」

「‥っっ‥!」

歯を今度は、指でなぞる。

愛してるよ、みーたん
 
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