君に届け、音色〈Adagio〉

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照りつける夏の陽射し。心地よいさざ波の音。
ホスト部は沖縄にある鳳家のプライベートビーチにいた。


「完全に騙されたよね」

「まさか客まで呼んでるとは…」


ホスト部全員で海に行くというから、ハルヒと詩音に可愛い水着を着せるはずだった光と馨。
しかしその実態は出張ホスト部であり、女の子達も招待されていて、とても詩音達に水着を着てもらえる状況では無かった。


「フッ…全ては計算通り。誰が可愛い娘達の水着姿をお前らの目になど晒すものか」


そう言うと、また妄想の世界へと入る環を双子は無視して
波打ち際に立ち海を見渡してる詩音にちょっかいをかけに行く。


「「詩音、海入ろうぜー」」

『え、俺いい…』

「折角来たんだし、足だけでも入りなよ」

「冷たくて気持ちいいよ」

『濡れたくないからいいってば!』


詩音は強引に自分の腕を引く光と馨を振り払って、怒ったように強めの口調でそう告げると、浜の方へと戻って行く。
双子はいつも無表情であまり怒らない詩音が嫌そうに自分達の手を振り払った事にびっくりしてお互い顔を見合わせた。


詩音はパラソルの下に座っているハルヒのもとへとやって来た。


「詩音、光達に絡まれてたけど大丈夫だった?」

『大丈夫だよ。ハルヒは海で遊んで来ないの?』

「うーん…折角だし自分も足くらいは入って来ようかな。暑いし。詩音は?」

『…俺、実は泳げないから水辺苦手なんだよね』

「そうなんだ、なんか意外」

『あ…内緒ね。バレたら、光と馨あたりがいじって来そうだし…』

「確かに…」


ホスト部員達は各自お客様をもてなし、海での時間を過ごしているといつの間にか時刻は夕方に差し掛かっていた。


「詩音くん、こっちこっち!」

「ここからの夕陽が綺麗なんだって!」

『走ったら危ないですよ!』


夕陽を見るために崖の上に行きたいと言う常連達を放っておけず、詩音は彼女達に同行する事となった。
崖の上に着くと、噂通り水平線上に綺麗に沈んで行く夕陽が見えて女の子達はうっとりとした表情で景色を眺める。
そんな彼女達の表情を見ると、一緒に来た甲斐があったと詩音も満足する。

詩音がふと視線を浜辺に落とすと潮干狩りしているハルヒがいた事に気付く。


『あ、ハルヒ』

「「「ハルヒくーん!」」」

「詩音まで…危ないですよ!」

『ハルヒもああ言ってるし、そろそろ下に行きましょうか』


心配そうに声をかけるハルヒに応えるように、詩音は女の子達にそう声をかけて、いざ下に戻ろうとした時、
目の前には見知らぬ二人組の男が来ていた。


「お、こっちにはギャルいるじゃん」

「そこの色男、俺達にも女の子分けてよ」


そう言って、女の子達に触れようとする男の手を詩音はパシッと叩いた。


『やめてください、ここはプライベートビーチです。すぐに出て行ってください』


詩音は男達を睨みつけて、女の子達を守るように彼女達の前に立つ。
すると、異変に気付いたハルヒもすぐに駆けつけてバケツいっぱいのウニを背後から男達にぶつけた。


「「いってー!」」

「迷惑だと言ってるんです。彼女達から離れてくれませんか?」

「チッ…何だよ細っちょろいのが二人揃ったところで何が出来んだよ!」

『っ…!?』


ハルヒの襲撃に激怒した一人の男が詩音の胸ぐらを掴み、彼女を崖へと追いやる。
詩音は必死に抵抗するが所詮女では男の力に敵わない。


「詩音!」

「おっと…お前の相手は俺がしてやる。覚悟しろよ」


詩音のもとへ駆けつけようとするハルヒだが、もう一人の男に行く手を阻まれる。
そして彼女の願いも虚しく、詩音は海の中へと投げ入れられてしまった。


「ハルちゃんとシオちゃんイジメちゃダメー!」

「ぐはっ!」

「光邦、こっちももう大丈夫だ」


ハニーの蹴りがハルヒの前に立ち塞がる男の横っ腹へと決まる。もう一人の男もモリが取り押さえた。
他のホスト部員達もこの騒動に気付き、崖の上へとやって来る。
環は慌ててハルヒのもとへと駆け寄ると彼女を強く抱きしめた。


「大丈夫か、ハルヒ!」

「先輩、それより詩音が…。詩音は泳げないんです!」

「なにっ!?」


青ざめた表情で崖の向こうへ視線をやる環だったが、
もうその頃には双子の片割れが一目散に海へと飛び込む姿が見えた。


「っ…馨っ!」


飛び込んだのは馨の方だった。
慌てて馨の名を叫び、止めようと伸ばした光の手は間に合わず、ただ空を掴むだけだった。





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