テニスのエース様

□送迎会
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「し」

その一音が聞こえた瞬間、相手陣の札を払う。札は真横に真っすぐ飛んでいく。

「のぶれど 色にいでにけり 我が恋は」

私は詠み手の声を聞きながら自陣にある残りの一枚を相手に差し出し、手をついて頭を下げる。

「ありがとうございました」

「ありがとうございました」

試合終了。

私は札をとるために立ち上がる。

今日の部活は時間的にこれで終わりかな、と壁にかけてある時計を見ながら思う。あと三十分は部活が出来る時間だけれど…。もう一試合は難しそうだし、暗記にも時間がかかる。

「物や思ふと」から始まる札を取って周りを見渡す。

他の部員はとっくに試合が終わっていた。

「集合!」

私の呼びかけに全員が畳の真ん中に集まる。

「今日の練習はここまで。ということで帰ろうか」

「よっしゃー!」

重之君が拳を上げる。そして荷物をまとめ始めた。

さて私も帰る準備をするかとバックを持ち上げた瞬間、コンコンと誰かが窓をたたいている。

「っ!?」

相手は河村君だ。
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