テニスのエース様

□練習開始
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「藤原」

私をおんぶした手塚君は声をかけてくる。

「最後までやり遂げるんだろう」

「え…」

手塚君は微かに私に顔を向ける。

「諦めないんだろう」

「…。っ、うん」

すると手塚君は私をおんぶしたまま、校庭を走り始めた。

これで十周するつもりだ!

風が顔に当たって涼しい。

「あの手塚君」

「どうした」

「こんな時に言うのはあれだけど、その。これってズル、だよね」

一瞬の沈黙。

「まぁ、そうなるな」

「ですよね」

そう言いながらも手塚君はひたすらに校庭を走り続けている。

「藤原は走る速度を落としていなかっただろう」

「あ、うん」

皆が徐々に速度を落としていく中、私はただただ必死に走っていた。

「だから、きっとズルじゃない。誰よりも必死にやっていたからな」

「手塚君」

かるた部のことだけじゃなくて、私のことも見ていてくれてたんだ。

私は手塚君の背に顔をつける。

「私も…手塚君みたいな…。部員や周りのことに気付ける部長になれるかな」

「もうなっているだろう。藤原は部員をしっかり導いていた」

手塚君が徐々にペースを落として、走るのをやめる。

これで十周目だ。

私は顔をつけたまま、手塚君に話しかける。

「あの、手塚君」

「どうした」

「いろいろありがとう」


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