テニスのエース様

□頂上決戦
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「暗記時間終了です。それでは試合を始めます」

「「お願いします」」

私と相手はお互いに頭を下げ、続いて読手にも頭を下げる。

札の配置を一瞬確認する。

私の好きな「かく」は相手陣。ここは攻めやすい。確実にとる。

そして「わたのはらこ」は自陣。けれど同じ大山札、最後まで聞かないと取れない札の「わたのはらや」も自陣。しかも「わ」で始まる札は自陣の方が多い。
つまり「わ」と詠まれた瞬間に、私が攻められることになる。

ここは気を付けないと。

「なにわずに」

序歌が詠まれる。私は頬に手をグッと押し当てる。

一年の時、お手付きをして負けている。だから、今回は油断しない。最後まで集中してやり遂げる。

「今は春べと咲くやこの花」

スッと息の吸う音。

「わ」

ー!―

来た!

「す」

自陣右上段に手を伸ばす。

この場合、「わすら」か「わすれ」のどちらか…。

私の陣にあるのは「わすら」。

「ら」

相手の手が伸びる。

けど、ここで負けていられないっ。

私は内側から札を取りに行く。一瞬だけれど私の方が早かった。

よしっ。一年の時と今の私は違う。あの時より、ずっとずっと成長している。

この調子で…油断せずに行こう。
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