テニスのエース様
□頂上決戦
2ページ/6ページ
「暗記時間終了です。それでは試合を始めます」
「「お願いします」」
私と相手はお互いに頭を下げ、続いて読手にも頭を下げる。
札の配置を一瞬確認する。
私の好きな「かく」は相手陣。ここは攻めやすい。確実にとる。
そして「わたのはらこ」は自陣。けれど同じ大山札、最後まで聞かないと取れない札の「わたのはらや」も自陣。しかも「わ」で始まる札は自陣の方が多い。
つまり「わ」と詠まれた瞬間に、私が攻められることになる。
ここは気を付けないと。
「なにわずに」
序歌が詠まれる。私は頬に手をグッと押し当てる。
一年の時、お手付きをして負けている。だから、今回は油断しない。最後まで集中してやり遂げる。
「今は春べと咲くやこの花」
スッと息の吸う音。
「わ」
ー!―
来た!
「す」
自陣右上段に手を伸ばす。
この場合、「わすら」か「わすれ」のどちらか…。
私の陣にあるのは「わすら」。
「ら」
相手の手が伸びる。
けど、ここで負けていられないっ。
私は内側から札を取りに行く。一瞬だけれど私の方が早かった。
よしっ。一年の時と今の私は違う。あの時より、ずっとずっと成長している。
この調子で…油断せずに行こう。