ロイ・マスタング編
□一は二、二は一
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「急にどうした、鋼の」
職務室の扉を開けながらマスタングは外套のボタンをはずし、椅子の背に外套を投げかけた。続いて部屋に入ってきたのはかつて鋼の錬金術師として名をはせたエドワードである。
「別に寄りたかったわけじゃねえけどよ。ウィンリィが絶対寄って挨拶してけって」
拗ねたように言うエドワードにマスタングは思わず ふ、と笑った。あれから二年、エドワードと幼馴染のウィンリィの関係がどうなっているのか聞いてはいないが、エドワードの様子を見れば予想はつくというものだった。
「なるほど。まだ旅をしているようだが、彼女とはちゃんと連絡を取ってはいるようだな」
「うっせえよ!」
ふん、と横を向くエドワードを見て、変わってないな、と思う。あれほどの戦いを経験しても、エドワードは年相応の若者だ。おごらぬところは褒めてやってもいい、と口に出す気はさらさらないものの、ムスタングは思った。
部屋の暖炉からヤカンを取って紅茶を入れるマスタングを見て、エドワードが眉をあげた。
「あれ、中尉は?」
「風邪で休みだ」
あの人も風邪ひくんだな、と言いながらエドワードは紅茶をすすった。
「なんか、いつも強いイメージがある。優しいところもあるけどさ」
「…そうだな」
マスタングは一口紅茶を飲んだ。お互いの近況、国政、旅の成果などを伝え合ったあと、エドワードは よっと腰を上げた。
「ほんじゃ、そろそろ行くぜ。中尉によろしく―――あ、見舞いにでも行こうかな?今は宿舎に住んでんだっけ?」
「―――いや」
マスタングは紅茶のカップを受け皿に置く。
「熱が高いと言っていた。休ませてやったほうが良いだろう」
そっか、とエドワードは執務室の扉を開けた。
「じゃあな、大佐。いや今は准将か。元気でな」
扉で振り返って笑うエドワードの顔は明るかった。マスタングは、この明るさは国の希望だな、とふと思い、手をあげて応えた。
エドワードが出ていくと、部屋は急に静まり返り、暖炉で湯の湧くシュンシュンという音が小さく響く。マスタングは背もたれに体を預けると、エドワードがリザを優しくて強い、と言ったことを考えた。
―――そうだな。そして、昔からそうだったな。
マスタングは窓から見える鈍色の空を眺めた。