約束 (長編)

□相思
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ーその夜。

(なんだかいろんなことがあった1日だったなぁ…。それに…私が調査兵団に勧誘されるなんて……)
1日の仕事が終わって名無しさんが自分の部屋でエルヴィンに言われたことを振り返っていた時。

トントン。ドアをノックする音がした。
ーこんな時間に…?誰だろ?
「はい」
名無しさんがドアを開けるとリヴァイが立っていた。

「リヴァイさん?」
「…少しいいか?」
「はい。大丈夫です」

リヴァイは名無しさんを兵舎の中庭へ連れてきた。
「今夜は星がたくさん見れますね」
夜空を見上げて名無しさんが言った。
「…お前が空から降って来た日も星がたくさん出ていた夜だったな…」
しばらく2人は黙って夜空に輝く星を並んで見ていたが
「名無しさん…入団する気か?」
リヴァイが切り出した。
「…この世界のことを何も知らない私は皆さんに本当に助けてもらいました。
今度は私が皆さんのお役に立ちたいんです。調査兵団に入団することでそれが叶うのなら私は…」
「ダメだ!」
名無しさんがびっくりするくらいの勢いでリヴァイはピシャリと言った。
「…リヴァイさん?」
「お前は壁の外へ行ったヤツらがどうなったのか見ていないからそんなことが言えるんだ!
壁の外はそんな生易しい場所じゃねえ。
俺は…俺は何人も部下を巨人に食われて無くした…!
剣の腕が立つヤツでさえ、何人もやられて来たんだ!
そんなところに…お前を行かせたくねえんだ」
「リヴァイさ…?!」
リヴァイは名無しさんを引き寄せて自身の腕の中に抱きしめながら呟いた。
「名無しさん…ここを出るんだ」
「え?」
「住むところは俺が用意する。
だから、すぐにここを出てそこへ移れ」
「どう…して?」
リヴァイを見上げながら名無しさんは聞いた。
「お前を巨人との戦闘に駆り出したくねえんだ。
もし…お前が巨人に食われたら…」
ー俺は…正気を保っていられるか…

「イヤです」
「名無しさん!」
「そうやって壁の外に出たリヴァイさんをずっと待つだけなんて…私は嫌です。
あなたが、私を危険な目に合わせたくないというのなら、私も同じです。
人類最強と言われていても、巨人を倒すことに危険はつきものでしょう?
私も…少しでもあなたの…力に…」
なりたいという言葉は、名無しさんの体ごとリヴァイの腕の中に消えた。
いつのまにか泣いてしまっていた名無しさんを再びリヴァイが抱きしめたのだ。
「名無しさん……俺は…」
俺は…たぶん初めてお前を見たときから…お前のことが…
「俺は…お前が…好きだ…」

深入りするなとエルヴィンに言われていたが、自分でもごまかせないくらいに名無しさんへの想いに気づいたリヴァイは、そっと耳元で囁いた。
リヴァイさん…
名無しさんは胸が締め付けられる気持ちで聞いていた。
「私は…もともと違う世界にいた者です。この世界に存在しない私が…あなたを…好きになってしまっては…」
こちらの世界にどんな影響が出るか…
「そんなの関係ねえ!」
抱きしめている両手の力をさらに強めながらリヴァイは続けた。
「たとえ何が起ころうともお前は俺が必ず守る!名無しさん…俺は…それくらいお前のことが…好きなんだ…」
リヴァイの想いの強さを感じ、名無しさんは自分の中の迷いが消えていくのを感じた。
「リヴァイさん…私も…
私も…あなたが…好きです」
「名無しさん…」
「だから、私は調査兵団へ入ります。
あなたと…あなたのいる世界を守りたいから…」
「…わかった。だが、壁外に出る時は俺から決して離れるな」
名無しさんの返事を待たずに、リヴァイは彼女の頬に手を添えるとゆっくりと自分の唇を近づけてキスをした。

無数の星たちに見守られながら、2人の影はしばらく重なっていた。


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