Ich sehe nur dich. 【あなたしか見えない】

□「Liebe auf den ersten Blick」
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宵闇に包まれた人気のない公園ー
「いやっ!離して!誰か!」
バイト帰りに近道だからと普段通らない公園を横切ろうとしたのは誤算だった…
名字名無しさんは突然背後から襲ってきた男に手首を嫌という程強く掴まれて茂みの中へ引きずりこまれようとしていた。 叫び声も虚しく響くだけで必死に逃げようとしても男の力には勝てない。彼女の心が絶望感に支配されていた時ー
「ぐわっ!」
突然掴んでいた手の強さが消えたと同時に自分を羽交い締めにしようとしていた男の姿がうめき声とともに後方に消えた。
「なんだ?!てめえ!」
彼女を庇うように男の前に立ち塞がった小柄な影が再び立ち上がってきた男の反撃に軽々と身を避けると腹部に強烈な蹴りを加える。ドサっという音とともに男は気を失って倒れた。
男が起き上がる気配のないのを確認してその影が名無しさんの方へゆっくり振り向く。刹那月明かりがその容貌を照らした。切れ長の暗灰色の瞳が名無しさんを射抜く。一瞬その強い眼光がハッと見開かれた。整っている彫りの深い顔立ちが見る者に威圧感を加えている。その瞳に合わせたようなダークグレーのスーツを見にまとった細身の小柄な男。助けてもらったのに礼を言うのも忘れて見惚れていると同じく自分をずっと見つめていたその男が口を開いた。外見同様、威圧感のある低い声が言葉を紡ぐ…
「お前…名前は?」

その公園を通ったのは偶然だった。
客先との打ち合わせを終え、会社も近いしたまには歩いて帰社するかと気まぐれに歩を進めていた時、助けを求める女の声が聞こえた。急いで声のした方に行って見ると小柄で華奢な身体の女が暗い茂みに引きずり込まれて行くのが見えた。咄嗟に引きずり込んでいた男を後方に蹴り上げる。背後に女をかばいながら懲りずに向かってきたそいつに渾身の力を込めて腹部に強烈な蹴りをお見舞いしてやったら呆気なく伸びた。起きる気配のないのを確認し、背後に佇む女を振り返った俺は稲妻に打たれたような衝撃に襲われた。
白磁のような滑らかな肌、長い漆黒の髪は春の風に緩やかに靡き、先ほどまでの恐怖のためか切れ長の黒い瞳は潤んでいる。
月明かりに照らされたその女の容貌は
まさに俺のタイプど真ん中だった。
ー逃がさねえ…
「お前…名前は?」

「名字…名無しさん…です」
「俺はリヴァイ。リヴァイ・アッカーマンだ」
「…アッカーマンさん」
「リヴァイでいい」
「リヴァイさん。助けていただいて本当にありがとうございます」
「構わない。もう遅いし家まで送る」
そう言って返事も待たずに私の手を取りリヴァイさんは歩き出した。
「家は近いのか?」
信号が赤になり、横断歩道の前で止まりながらリヴァイさんが聞いた。繋いだ手はいつのまにか恋人繋ぎになっている…私は自分の心臓が破裂するんじゃないかと思うほどドキドキしていた。
「…ここから歩いて15分くらいです」
「そうか。いつも帰る時間は今くらいなのか?」
「いつもは…もう少し早いんです。今日はバイトが遅番だったので…」
「ほう?どこでバイトしてるんだ?」
「○×書店ていう駅ビルに入っている本屋です」
「ああ…その本屋なら知ってるぞ」
「本当ですか?」
「何回か行ったことはあるが…見かけたことなかったな」
「大学の授業があるので、不定期なシフトなんです」
「大学生か…歳はいくつだ?」
「20歳です。この4月から3年になります」
そんな話をしているうちに私のアパートに着いた。

「名字…名無しさんです」
名前を聞くと潤んだ瞳に頬を赤らめて俺を見上げながら答えた。 まだ恐怖が取れないのか不安げに地面に伸びている男に視線を落とした彼女を1人で帰らせる選択肢など今の俺にはない。
当然のように手を取り歩き出す。
途中横断歩道で信号待ちをしている時に名無しさんの反応を伺いながら繋いだ手を俗に言う恋人繋ぎに変えて見る。耳まで真っ赤になった。…可愛すぎだろ。
その反応に気を良くした俺は名無しさんの個人情報を探るべく世間話を装い色々聞き出した。
バイト先は俺も良く行く駅ビルの書店か。にしては、見かけたことねえな。
そう思い聞いてみると、昼間は大学に行っているという。恐る恐る歳を聞いたら20歳と返ってきた。
良かった…ギリ成人してた…!
若く見られることが多いが(決して背が低いからではない)こう見えて俺は三十路を過ぎている。それにいくら大学生とはいえ、未成年と付き合うのは道徳的な問題もある。その点20歳ならなんら問題もない。第1段階はクリアした。あとは…
「あ、ここです」
頭をフル稼働させて次の話題に移ろうとしたが、無情にも名無しさんの住んでいるアパートに着いてしまった。
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