約束 (長編)

□傾慕
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ミケとハンジが出て行き、団長室にはリヴァイとエルヴィンの2人が残った。
「リヴァイ、何かありそうだな?」
執務机に両ひじをつきながら感情の読めない笑みを浮かべてエルヴィンが聞いた。
「よく名無しさんを俺の班に入れるのをあっさり許したな?」
壁に寄りかかり腕組みをしながら牽制するようにエルヴィンをにらみリヴァイは聞いた。
「名無しさんの戦闘能力を見た上で、リヴァイ班が適任だと思っただけだ」
「初列索敵班は巨人との遭遇率も高い。通常ならハンジやミケの意見を採用するだろ?」
「私は適材適所を一番に考えているさ」
「…本当の狙いは何だ?」
リヴァイの鋭い眼光がエルヴィンを射抜く。
ー名無しさんのことになるとこの男から余裕が消えるな…
「今日の立会いを見ていて明らかにおかしい時があっただろ?」
エルヴィンがリヴァイに聞いた。
「おかしい時?」
「リヴァイ、とぼけるのはお互いもうやめよう。終盤にナナバが一気に決着をつけに行こうとした時のことだ。君も見ていただろう?」
「…ああ」
「見ていた誰もがナナバがそのまま勝つと思った。だが…何故か途中からナナバが名無しさんに押され始めたんだ」
「……」
「その時の名無しさんを見たか?」
「…ナナバの影になって俺の位置からははっきりとは見えなかったが…」
「瞳の色が変わったんだ。普段の黒から黄金色に」
「?!」
「まとう空気も変わったな。あんな殺気は私も感じたことがない…」
エルヴィンがリヴァイを見据えた。
「それに…以前ミケが言っていたんだ。名無しさんのうなじの匂いを嗅いだ時ー」
「何?!」
「最後まで聞け。その時に言ったんだ。人間でも巨人でもない初めての匂いだと」
「…?!」
「その時は私もハンジも相手にせずに流してたんだが…名無しさんのあの変化を見た今となっては…」
「何が言いたい?」
「名無しさんは…人間なのだろうか?」
「なんだと?!」
寄りかかっていた壁から弾かれるようにリヴァイはエルヴィンの方に向き直った。
「バカなこと言うな!」
胸ぐらを掴みかかる勢いでエルヴィンにリヴァイは詰め寄った。
「本当かどうかはおそらく今回の遠征ではっきりするさ」
「初列索敵班に割り振ったのはその為か」
「巨人と遭遇することで名無しさんがどう変化するか…リヴァイ、彼女の持つ能力は必ず我々にとって大きな力になるはずだ」
ーエルヴィンは…名無しさんを何らかの形で利用しようとしている…!
「エルヴィン、てめえの狙いはわかった…だが、これだけは約束しろ」
「何だ?」
「当日の名無しさんの隊列の位置、及び巨人討伐については、全て俺の指示で動かす」
「……いいだろう。ただ…訓練の教官はこちらが割り振る」
「俺が教えた方が早いだろうが」
「壁外に遠征となれば色々リヴァイにもやることがあるだろう?」
「てめえ…」
「リヴァイ。君が名無しさんを大事に思う気持ちはわかるが…彼女も入団したのなら一兵士となったことをよく肝に命じてくれ」
煮え切らない気持ちを抱えたまま、リヴァイは団長室を後にした。


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