約束 (長編)

□入団
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「名無しさん。こちらがお前がお仕えする千姫様だよ」
「よろしくね、名無しさん」
「はい。よろしくお願い致します!」
父親に連れられて千姫に初めて目通りしたのは、名無しさんが数えで十になる歳だった。
「よかった!菊月みたいにすごい歳の離れた人かと思った!
名無しさんは歳いくつなの?」
「数えで十になります」
「じゃあ名無しさんのほうが2つだけお姉さんね!」
「そんなお姉さんだなんて…」
「いいのいいの!せっかく歳も近いんだし、仲良くしましょ!」

八瀬の鬼の頭領をお守りするのが、名無しさんの家の代々の生業だ。
当然幼い頃から名無しさんにも武芸、主に刀や体術が仕込まれた。

全ては千姫様をお守りする為に…

ーー夢…?
また元いた世界のことなんだろうか?
まだ夜が明けきらないうちに目覚めた名無しさんは夢の内容を反芻していた。

「こちらが……様だよ」
「よろしくね、名無しさん」
「我々は古くから……をお守りするのが生業なのだ」

夢の中の姫君は大きな瞳が印象的なとても可愛らしい方だった。
あの姫君を私はお守りしていたのだろうか…
でもこの前見た夢では、男の人達に混ざって戦っていたし…

それに…
昨夜のリヴァイとのキスを思い出して唇を指でなぞってしまう…
(私…リヴァイさんと…)
重なり合った唇の感触や抱きしめられた腕の強さを思い出すと胸が切ないくらい苦しく鳴り出してしまう。
あのあと、中庭でしばらく抱きしめられていた。できれば時がこのまま止まって欲しい…そう願わずにはいられなかった。だが、さすがにいつまでも抱き合っているわけにはいかない…
「…名無しさん…」
「は…い」
名残惜しげに手を離しながらリヴァイが言った。
「部屋まで…送る」
リヴァイに手を引かれて部屋まで送り届けられた後、ドアを開けて振り返り
「…おやすみなさい」
「…ああ」
名無しさんがドアを閉めようとした時、リヴァイが手を掛けて止めた。
「…リヴァイ…さん?」
名無しさんがリヴァイを見上げると、熱を帯びたリヴァイの目と合ったが、ふいとリヴァイは視線を外し、言った。
「…明日、言うのか?エルヴィンに」
「…はい。早い方がいいと思いますし」
「…そうか。俺が言ったことを忘れるなよ」
「壁の外でのことですか?」
「…ああ。あと…俺とお前のことだが…」
「…あっ…」
あの時のことを思い出して今さら顔が真っ赤になっていくのを感じ、視線を彷徨わせていた名無しさんの顎をクイっと掴んで自分の方に向かせ、フッと笑ってリヴァイは言った。
「俺は…本気だからな」
ーだからお前も覚悟しとけよ?
そう囁いたあと、触れるだけのキスをしてリヴァイはドアを閉めて自室へ戻っていった。
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