小説

□甘い
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今日は一日オフの日だった。

朝からナヨンオンニとショッピングに出掛けて、お気に入りのものも見つけて上機嫌で家に帰る。

「ただいま〜」

元気にそう声を上げて玄関に入ると、お留守番をしていたツウィとミナが

「おかえり」

と迎えてくれた。

買ったものを整理しようと中に入る。

ほのかに甘い匂いがした。
何だろう?

そういえばジヒョもお留守番だったはずなのに姿が見えない。

「ジヒョは?」

「ん〜部屋にいるんじゃない?」

何故かニヤニヤする二人。
頭に疑問符を浮かべたまま、もう一つの気になっていたことを聞いた。

「この甘い匂い何?」

「ジヒョに会ったらわかるよ」

またはぐらかされる。
何か企んでいるのかな?

「え〜なんで教えてくれないの」

「ふふ、お楽しみだから」

結局何も教えてくれないで、そそくさとその場を去る二人。

しょうがないのでジヒョを探すため部屋に向かう。

「ジヒョいるー?」

声をかけながら入ると、ベッドの上でやけに神妙そうな顔のジヒョが座っている。

「おーい、ジヒョちゃん聞こえてますかー!」

「わっオンニ!びっくりさせないでよ!」

私の存在に気づいてなかったようで、すごく驚かれた。

「ちゃんと声かけたよ!」

「え、そうなの!ご、ごめん」

謝るジヒョ。そんなに何を考えてたんだろう。

取り敢えず、今は疑問を解くのが先だ。

「あのさ、キッチンで甘い匂いしたのってなんでだかジヒョ知ってる?」

「あ、ああ、それね、三人でクッキー作ったの。待ってるとき」

そういうことか。謎が解けた。
じゃあもしかして…

「ジヒョや、サナのために作ってたりとか…!」

期待の目でジヒョを見つめる。

しかし、ジヒョは返事をしない。
また私に気づいていないのか、敢えて聞こえない振りをしているのか。私の言葉を聞かずにさっきからうんうんと唸って悩んでいる。

ジヒョの持っている毛布に何か入っているのだろうか。それを見てはしかめっ面をして、顔を上げて何か決心したように頷いたと思ったらまたそれを見てしかめっ面になる。

正直、そんな可愛い様子を見たら無視されたことなんてどうでも良いとか思ってしまう。でも、私はオンニなんだから無視なんて許しちゃいけない!と強い思いでもう一度声をかける。というのは建前で本音はオンニにかまって!だということは内緒だ。

「ジヒョや〜サナの〜」

今度は無視されないようにほっぺをぶにぶにといじって言う。

「ん”〜〜、ないっ!」

ん”〜〜ってなにその間は!
ないって言われても期待してしまう。

「ある!その毛布の中にサナの分があるでしょ!」

ビシッとジヒョに抱えられた毛布を指差す。言われたジヒョは毛布を持って逃げ出そうとする。

「ないったらないの!」

「ジヒョちゃんの手作りくっきぃいい”〜」

逃げるジヒョの脚にオンニのプライドなど忘れてしがみつく。

「分かった!ごめん、あげるから離れて!」

「ジヒョちゃん〜!!」

根負けしたらしいジヒョが毛布の中に手を伸ばす。
ようやく愛のクッキーの全貌が明らかに!じっとその様子を目で追う。

期待に胸を高鳴らせ、「待て」の姿勢で待機する。

そのときジヒョが突然叫んだ。

「あ!UFO!」

「えっ?」

咄嗟にジヒョが見た方向を見る。

ここは部屋の中。
当然のように、見えるのは部屋の白い天井のみ。

バタンッとドアの閉まる音が聞こえて、ようやく騙されたことに気づいた。

振り返ると、ジヒョは跡形もなく消えていた。

「ジヒョちゃんひどい!!」

急いでドアを開けて廊下に出る。

ジヒョを探そうとキョロキョロと辺りを見回していると廊下に何か落ちているのが見えた。

近づいて手に取る。

ふわっと甘い香りがした。
まさかと思ってよく目を凝らすと、手作り感溢れるラッピング。
ハートが散りばめられた赤い袋にはサナへ、と書かれている。
誰からのプレゼントかなんてこの字を見れば一目瞭然、ジヒョだ。
平仮名で名前を書いてくれている。ミナに教えてもらったのかもしれない。

嬉し過ぎて頬が緩みまくりなのが自分でも分かる。

リビングに走って行くとソファで毛布にくるまってジヒョが座っている。

何故か口は拗ねているのかとんがっている。

「ジヒョちゃんたら、ツンデレ!オンニに直接渡してくれればいいのに!!」

気持ちが抑えられなくてぎゅーっと目の前のジヒョを抱きしめる。

「クッキー、見ないで食べて」

抱きしめられたジヒョは何故か毛布を顔に被りながらそう言った。

なぜだろうと思って袋からクッキーを取り出してまじまじと見る。
チョコペンで書いたであろう字を剥がした跡がある。その薄くなった字を読む。

「サランへ…?」

「サナ!見ないでって言ったでしょ!」

毛布を被っていたジヒョは私が字を読むのに気づけなかった。
怒って毛布から顔を出したジヒョ。顔が真っ赤になっている。
果たしてそれは怒りか羞恥か。

「もう、だからあげたくなかったのに!目離した隙にミナとツウィが勝手に書いて…。恥ずかしくてこんなの渡せるわけないじゃん!字消えないし!」

「だから中々くれなかったの?」

「そうだよ!最初はあげるつもりだったのに二人が変なことするから…」

なんて可愛い告白。

「ありがと、ジヒョちゃん。すごく嬉しい」

「ん。」

まだ拗ねているのか、そっぽを向いているが耳が赤い。

「サランへ」

私から言う。

「私も」

小さい返事が聞こえた。

クッキーを口に運ぶ。
サクサクとした食感にバターの風味とバニラビーンズの香り。

甘い。
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