小説

□思い
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「ねえ、ミナ。私が…女の子に告白するって言ったらどうする?」

「え……」

昼休みの屋上。ここにいるのはジヒョと私だけ。二人でお昼を食べていた。
食べ終えるといつもの他愛のない会話が続く。

ジヒョが急に黙り込んで、少し会話が途切れた。

そして今の言葉。

今日なんか挙動不審だなと感じてはいたけどもしかしてこれを切り出すためだったの?

言葉が頭に入ってこない。頭がうまく働かない。

ジヒョが?女の子に?告白…?





ジヒョとは今年たまたまクラスが一緒になって急激に仲良くなった。

ジヒョは去年生徒会に推薦されて一年生ながら副会長を務めていた。
それなりに前に出る役職なので集会などで顔は知っていた。が、自分とは違うタイプの人間だな、と思ったのが第一印象で、まさかここまで仲良くなるとは思っていなかった。

今では、言葉に出しはしないけど、一番大切な友人。きっとジヒョもそう思ってくれてる。

「秘密だけどね、ミナといるときが一番楽しいかも。」

ある日こっそりジヒョがそう教えてくれた。

「嬉しい。家族とかより?」

いじわるして言ってみると

「え…いや…ん”〜 学校では!ミナが一番!」

とちょっと気まずそうに言う。この正直者め。

「じゃあジョンヨン先輩とかナヨン先輩とかサナ先輩とかは?」

「ん〜先輩…は敬わなきゃだよね…やっぱさっきのなし!!」

「ジヒョひどい…優柔不断…」

大げさに落ち込んでみせると

「ごめんって。ほら、これとそれは違うから…ミナのことは大好きだよ!」

焦ってフォローしてくるジヒョ。

「ジヒョ面白い。」

耐えきれず笑い出した。

照れやらからかってくる私に対しての怒りやらで叫びながら追いかけてくるジヒョから逃げる。

「私は真面目に言ってんの!!」

「ほんとかな〜」

「ほんとだって!!」

「ミナが意地悪!!」

笑いが止まらなくて息が苦しかったけどそれもなんだか可笑しくて。
暫く屋上は叫びながらおいかっけこをする私たちのせいで騒がしかった。

こんなふうに私たちはたくさんの時間を共にした。言葉より確かなもの。


それに、何かでグループを作るときいつも私に駆け寄ってきて「ミナ!一緒にやろう!」と真っ先に言ってくれることに優越感を感じてもいた。ちょっとした独占欲ってやつ。

とにかく私にとってジヒョは一番だったし、ジヒョにとっても私は一番だったと思う。自惚れではなくね。


初めて知ったときから、接してみてイメージが一変したというわけではない。思った通りしっかり者で明るい人だった。
ただ、ゆっくりと知っていったのだ。
ジヒョのこと、もっと深く。

ジヒョは本当は私より泣き虫だった。
強がりで繊細な人だった。
誰よりも優しくて暖かい人だった。
ときどき子供っぽくてニヤニヤしながらいたずらしてきて、そのくせこっちがからかうとすぐ拗ねて。
いっぱい褒めると真っ赤になって、照れ隠しにバシバシと痛いくらいに叩いてくる。

関わるたびに知っていることが増えていく。

いつの間にかそれは大きくなって私の心を占領した。

私はジヒョに恋をした。





「…、やっぱり気持ち悪いよね…」

ジヒョが顔をそらす。
気持ち悪くなんてない。私は…

「っそんなことない!!」

咄嗟に大声で否定してしまった。
普段あまり大声を出さない私の叫びに、言われたジヒョもぽかんとしている。
私は後悔なんてしてないから。
自分を肯定するためのエゴかもしれない。だけど伝えたいと思った。
…たとえその相手が私じゃなくても。

「人を好きになる気持ちに気持ち悪いとかそうじゃないとか関係ない。ジヒョだってその気持ち止められるわけないでしょ?少なくとも私は応援する。」

ジヒョの頬を両手で挟んで上を向かせる。

「ミナ…」

その顔に浮かぶのは戸惑いと少しの安堵とぬぐい切れない不安。
なんて顔してるの、ジヒョ。

「ジヒョが好きになった人なら素敵な人に決まってる、ね?」

「…うん、素敵な人。」

苦しい恋のはずなのにジヒョはそこで初めてはにかむように笑った。
それでもやはり目には悲しみの色を湛えていて。

「なら良かった。教えてくれてありがとう。」

それを振り切るように明るい声で言った。無理に笑うけどなんで私じゃダメなんだ、と顔も知らないジヒョの思い人を恨む。粘着質で黒い感情が胸を占める。




ジヒョがいなくなった屋上で、ジヒョが女の子も好きになれると分かったのが今日唯一の救いだったのかな、と一人自嘲した。

「バカ…なにが「良かった」よ。」

小さくつぶやいたその言葉は屋上に吹く澄んだ風に流されて誰にも聞かれずに消えた。
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