小説
□オメガバース
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高校生時代ジヒョちゃんと親友だったβの女の子。
ある日冗談で抑制剤を隠してしまう。
今発情期がきたら私もうここに居られなくなっちゃう、とひどく取り乱すジヒョ。
自分が考えていた以上に深刻な事態になってしまい、言い出せなくなってしまった。
どうしよう。
罪悪感からジヒョの介抱を申し出て、混乱状態のジヒョをΩ専用の保健室に連れて行く。
「落ち着いてね、もうすぐ着くから。」
『う、うん…。』
「あと少しだから…!」
『…っ…!!う、ん…。ぁっ…!!』
最初は問いかけに応じてくれたが、段々と息が荒くなって苦しそうに甘い声を上げるようになる。
立っていられなくなったジヒョは廊下にへたり込む。
『きちゃった…私もうダメだよ…。』
ぐすぐすと泣き出してしまったジヒョを背負って走る。
発情期が上手くコントロール出来ない人や、初めて発情期がきた人、上手く薬が効かない人などを受け入れるのがΩ専用の保健室。
発情期に苦しむのは身体だけじゃない。心にかかる負担をカウンセリングによって減らす役割を担っている。
また、どうしても発情期を抑えられないΩが性的興奮に耐えられず自分でしてしまったときのためにベ、ッドは一つ一つ隔離され声が漏れない造りになっている。
部屋の一つに急いで入ってベッドにジヒョを寝かせた。
「大丈夫?ジヒョ…。」
側に行くと甘い匂いが強く香った。
頭がぐらりと揺れる。
息が乱れ切なげに喘ぐジヒョ。
苦しそう。
私の所為でごめんね。
友達なのに。
ジヒョ、ごめん。
ジヒョ、許して。
ジヒョ、すごく真っ赤な顔してる、苦しいのかな。
ジヒョ、脚も震えてる。
ジヒョ、泣いてるの?
ジヒョ……可愛い。
『××××××!!』
『××××!!××!!』
ねぇ、さっきから何言ってるの?
熱を帯びた瞳。
薄く開いて熱い吐息を漏らす口。
うっすらと汗の滲む首筋。
…それより、ジヒョのこと…食べたいや。
『××××!!××××××!!』
うるさいなあ、聞こえないって。
『…だめ!!近寄ったら!!』
「…え…?」
いつの間にか私はジヒョの身体をベッドに押し付けるように覆い被さっていた。
抵抗するジヒョの両腕を捻り上げて押さえつける手は私のもの。
「っ!!私何して…!!」
『私のフェロモンのせいなの!!早く離れなきゃ…。』
私の下でジヒョが身体を動かす。
空気が揺れて甘い香りが私を包む。
…そこで私の記憶は途切れた。
薄ぼんやりとした意識の中で遠くに聞こえる誰かの叫び声。
その声はあまりにも遠いから、私は耳を傾けなかった。
「やめなさい!!もう意識がなくなってるのよ!!やめなさい!!」
いつまで経っても出てこない私たちを心配して先生たちが部屋に様子を見に行ったときには、もう全てが遅かった。
もう意識のないジヒョのそこを一心不乱に舐め回し、中を指で掻き回す狂った私の姿がそこにあった。
乱暴に脱がされた制服とシーツを汚す体液は行為の激しさを物語っていて。
強く引かれ抜け落ちたジヒョの長い黒髪は私の指に絡まったままだったという。
幾重にも涙の伝った跡の残るジヒョの顔を、「なんで気付けなかったの、守れなかったの。」と若い女職員は悔しそうに泣いて見つめた。
私はその場で鎮痛剤をうたれ、そのまま二日間眠り続けたそうだ。
目覚めた私の側にはもうジヒョはいなくて、そのままジヒョと二度と会うことが出来なかった。
置手紙一つ残してジヒョは何も言わず学校を去った。
ごめんね。
さようなら。
今までありがとう。
便箋に書かれていたのはたった3行の言葉。
私はただ泣き続けた。
一言にΩ、β、αといっても個人差はある。
私はΩの発情期のフェロモンを受けすぎてしまう体質だったらしい。
精密検査の後に初めてしったことだった。
それからはフェロモンへの反応を抑えるため私も抑制剤を服用するようになった。
初めてから、分かっていれば。
何度そう思っただろう。
もしかしたら大人になった今も、側に彼女がいる未来があったのかもしれない。
いつも優しくて、不器用で、愛に溢れた人だった。
これが恋なのかは分からないけど、私はあなたが大好きだった。
幸せになってほしい。
それだけが私の願い。
幸せを壊した人間はそう願うのも許されないだろうけど、絶対に幸せになってほしいの。
…あなたに、会いたいな。
夜の暗闇の中、街の大きなパネルの中でキラキラした笑顔で歌っているあなたは眩しいくらいに輝いて、頼れる仲間と共にいた。
画面いっぱいにあなたが映って、手を伸ばすけど、当たり前のようにそれは何も掴むことはない。
あなたに、会いたいなあ。
涙は誰にも気づかれないまま、夜の街に吸い込まれていった。