小説
□わがまま
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「あまり他の子とベタベタしないで」
自分の部屋にジョンヨンを呼んでそう言った。
昼間メンバーと仲良さそうに手を繋いでいたのが嫌だった。
別に気持ちを疑ってるわけではない。だけど一度胸に沸き起こった嫉妬は抑え込むことができなかった。
口から出た言葉は予想以上に棘を含んでいて、自分のかわいげのなさに嫌気がさす。
何で素直に私だけを見てって言えないの。
やっと部屋に呼ばれた理由が分かったらしいジョンヨン。
「何、ジヒョ嫉妬してたの?」
からかうように笑って言う。
私のきつくなってしまった言葉に気づかないふりをしてくれる。
ジョンヨンはいつもそうだ。
私の素直じゃない性格を笑って許してくれる。天邪鬼な言葉しか言えない私に、分かってるよと笑いかけてくれるのだ。
私はその優しさに甘えてばかりいる。
黙ってしまった私をジョンヨンは苦笑交じりに抱きしめる。
「そんな顔しなくてもいいって、わかってるよ」
ほら、まただ。
また気を使わせてしまった。
成長しない自分が嫌だ。
背中の服をぎゅっと掴んで抱き返す。
悔しい。子供な自分に比べてジョンヨンはなんて大人なんだろう。
永遠に縮まらない歳の差は、私にジョンヨンの隣に立つことは一生できないんだと言っているようだ。
「ジョンヨンは優しすぎる」
胸に顔を埋めながらぼそっと言うと
「ジヒョが好きだからだよ」
なんて言う。
普段は子供っぽいくせにこんなセリフをサラッと言っちゃうあたりさすがガールズクラッシュだな、と思う。
ジョンヨンは私にはもったいないほど優しくてかっこよくて、可愛らしい。
私からキスをすると照れて動揺するジョンヨンが好き。
「違う、ジョンヨンは誰にでも優しい」
今度は強く言った。正直な気持ちだった。
優しいからこそ、私には少しぐらいいじわるでいいの。
素直に、素直に。
できるだけ真っ直ぐに気持ちが伝わるようにと言葉を選ぶ。
「だから、私には遠慮しないでほしい」
話の展開についていけず固まっているジョンヨンの手を取る。
手を引いてベッドまで連れていく。
手を繋いだまま座って、そのまま自分に覆いかぶさるようジョンヨンの身体を引き寄せた。
倒れこんだジョンヨンの耳元で呟く。
「して、ジョンヨン」
「ちょっジヒョえっ」
あからさまに驚いてるジョンヨン。
私から誘ったのは今回が初めてだった。
昼間のことがあって少し話の軌道がずれてしまったけど、実ははこれが本題。
ジョンヨンは行為中一度も私が嫌がることはしたことがなかった。
それに私の体調が悪いときは絶対に声をかけなかったし、私がそういう気分じゃない時もそうだった。
時々切羽詰まったように私を求めることがあってもひどく優しく私を抱く。
私はこれが嬉しくもあり、寂しくもあった。
大事にしてくれているが故なのだろうけど、時には感情をぶつけてくるときもあっていいのにと思った。
恋人なんだから私だってジョンヨンの気持ちを受け止めたい。
ちゃんと向き合って支えたい。
「優しくしてくれるのは嬉しいの。でも優しくされるたび私はジョンヨンの気持ちを受け止められないと思われてるのかなって、自分が頼りないからなのかなって悔しくなった。お願い、私にだけは我慢しないで、優しくしないで。ジョンヨンのこと知りたいの」
「ジヒョ…」
まだ戸惑っているジョンヨンの頬を手で挟んで顔を近づける。
「私がいいって言ってるんだからいいでしょ…」
顔を近づけた途端恥ずかしさが込み上げてきた。顔が赤くなるのもわかったし、目も合わせられない。
だけど伝えなきゃ。
いきなりしおらしくなった私を見て深刻な顔から一変ジョンヨンが吹き出した。
笑い過ぎて涙目になりながら
「わかった、もう我慢しない。後悔しないでね」
そう言った。身体が押さえつけられる。
「好きにして?」
真っ赤な顔で精一杯の誘い文句を言ってやる。
「…それ反則」
私の身体に口付けるジョンヨンの目は隠しきれない熱を帯びていて、その熱に溶かされるように私たちは情事に溺れた。