本編
□恐怖心
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帰り道、俺は悩んでいた。ゼラの事で。
俺が光クラブに入ったのは、あの残酷劇を止めるためだ。ハッピーエンドとまでは行かなくても、皆に生きていてもらいたかった。それがゼラであっても。
〈それなのに〉
俺はぐっと唇を噛んだ。
昔、タミヤとダフとカネダの3人が檻に閉じ込められた時は、ダフとカネダが最後までタミヤがリーダーだと言い張っていたからだ。閉じ込められた3人は洗脳されてしまった。自分はそうなる訳にはいかないからすぐにゼラの意見に賛成した。
表向きだけは従順であろうと。
〈それなのに、それなのに〉
あの目の件以来。俺は本当に考える事を放棄して、ただただゼラの言いなりになっていた。まるで本当の駒のように。
だから浜里も先生も死んだ時なんとも思わなかった。
自分でもその事に気づいていなかった。ライチに「少女」と言われるまで。
すべてを「知っている」からだからなんなのだ。ここに来た目的をいつの間にか忘れていた。
俺は道の真ん中でうずくまる。
〈まるで...「俺」が「私」を消そうとしている...〉
皆をゼラを止めなくちゃいけないのに、このまま進んで行ってもいいのかもしれないと思っている自分がいる。このまま全員見殺しにして自分も死んだ方がいいのかもしれない。
「ううっ...ううっ...」
もうどうしたらいいのか分からない。ギュッと自分の両腕を強く掴んだ。
怖い、怖い、怖い。
その時、後ろから誰かの足音が聞こえる。
〈誰だ?〉
俺は体を引きずりながら、近くの電信柱に隠れた。
「ママ!今日はありがとう!」
「いいえ、どういたしまして」
そこには小学生位の小さな女の子と、その母親が手を繋いで歩いていた。
「ママ、みっちゃんのお誕生日会楽しかったね!」
「ええ、プレゼント喜んでくれて良かったわね」
「うん!早く明日にならないかなぁ、学校に行きたい!」
「そうね。早く友達に会いたいわよね」
「そうなの!」
「うふふ」
その女の子はピンク色の可愛らしい服を着て、髪を2つに結んだ可愛い子だった。母親もその子を本当に愛おしそうな目で見ていた。このガス臭くて黒い町を2人は幸せそうに歩いていた。こんな町なのに、あの人達はあんなにも笑顔なんだと思った。
そして、思い出した。1人の少女の事を...
『お兄ちゃん!』
〈確か、名前が...〉
タマコ。確かそんな名前の子に、あの女の子はよく似ている。
「...」
俺は1人で立ち上がり、フラフラと歩いて家に帰った。