本編
□本当の自分
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「あ、あれ?ライチは?」
「もうとっくに行っちゃったわよ?」
「でへへ、お前まさかライチに女だと思われてヘコんでんのか?」
ヤコブはまた鼻の下に指をあて奇妙に笑う。チラリと他の皆を見ると、ゼラとジャイボとタミヤ以外は顔を赤くしてソワソワしていた。どうやら漫画のシーンと同じの様だ。
「別にヘコんでる訳じゃねーよ」
「あら、良いじゃない!女の子に見えたって事は、スミレはカワイイって事じゃない!」
「嬉しくねぇし!」
ライゾウは俺の後ろへ回り込み、両肩にそっと手を置いて言った。体を押し付けてくる気持ち悪さにバッと離れた。
「それにしても、女の子ってどんな感じの奴連れてくるかなぁ?ライチの奴」
「きっと私に似た美しい子を連れてくるわ!」
「お前はいいよ、このオカマ」
「オカマじゃないわよ!」
俺はヤコブとライゾウの2人を見つめた。そもそもこの2人はどうしてこのクラブにいるんだろう?漫画でもあんまり目的みたいなの言ってなかったよな?
〈そういえば、俺もどうしてこのクラブに入ったんだろう?〉
「ねぇ?スミレはどんな女の子がいいかしら?」
「え?俺?」
「やっぱりライゾウちゃんみたいな子がいいわよね?」
「俺は...」
考え事をしていた所をライゾウに言われた。ライゾウの言葉にう〜んと頭を悩ませる。そしてフッと頭に浮かんだ1人の少女。
「俺は...黒髪で色も白くて、ピアノが弾ける美少女がいいな」
俺は頭に思い浮かんだ1人の少女の事を言った。
するとライゾウは「え?」と首を傾げ、ヤコブはブッと吹き出す。
「なんだよソレ!お前そういう女がタイプかよ!」
「ピアノ以外なら私当てはまってるわよ!」
ヤコブはそのまま笑い出すが、ライゾウは俺に唇を寄せてくる。俺は抱き着こうとするライゾウの額を掌でぐぐぐっと抑えた。
「やめろよ、ライゾウ...」
「いいじゃな〜い!」
「ゼ...ゼラ!ライチが戻って来ます!!」
ニコの言葉でライゾウはピタッと止まる。俺はそのスキにライゾウと離れた。
「手になにか抱えてます!」
「えっもう!?」
「すごいぞライチ!!」
皆は喜んでいるが、俺は落ち着いて近くの古いイスに腰掛ける。
ライチはすぐには少女を連れてこない。ここはデンタクに頑張ってもらうしかないな。
俺は顎の下に手を当ててそんな事を考えていた。
そしてそんな俺の事を『美しい瞳』が捕らえている事に、その時は気づいていなかった。
「きゃはっスミレ...」