本編

□本当の自分
2ページ/3ページ


「あ、あれ?ライチは?」


「もうとっくに行っちゃったわよ?」


「でへへ、お前まさかライチに女だと思われてヘコんでんのか?」


ヤコブはまた鼻の下に指をあて奇妙に笑う。チラリと他の皆を見ると、ゼラとジャイボとタミヤ以外は顔を赤くしてソワソワしていた。どうやら漫画のシーンと同じの様だ。


「別にヘコんでる訳じゃねーよ」


「あら、良いじゃない!女の子に見えたって事は、スミレはカワイイって事じゃない!」


「嬉しくねぇし!」


ライゾウは俺の後ろへ回り込み、両肩にそっと手を置いて言った。体を押し付けてくる気持ち悪さにバッと離れた。


「それにしても、女の子ってどんな感じの奴連れてくるかなぁ?ライチの奴」


「きっと私に似た美しい子を連れてくるわ!」


「お前はいいよ、このオカマ」


「オカマじゃないわよ!」


俺はヤコブとライゾウの2人を見つめた。そもそもこの2人はどうしてこのクラブにいるんだろう?漫画でもあんまり目的みたいなの言ってなかったよな?


〈そういえば、俺もどうしてこのクラブに入ったんだろう?〉


「ねぇ?スミレはどんな女の子がいいかしら?」


「え?俺?」


「やっぱりライゾウちゃんみたいな子がいいわよね?」


「俺は...」


考え事をしていた所をライゾウに言われた。ライゾウの言葉にう〜んと頭を悩ませる。そしてフッと頭に浮かんだ1人の少女。


「俺は...黒髪で色も白くて、ピアノが弾ける美少女がいいな」


俺は頭に思い浮かんだ1人の少女の事を言った。
するとライゾウは「え?」と首を傾げ、ヤコブはブッと吹き出す。


「なんだよソレ!お前そういう女がタイプかよ!」


「ピアノ以外なら私当てはまってるわよ!」


ヤコブはそのまま笑い出すが、ライゾウは俺に唇を寄せてくる。俺は抱き着こうとするライゾウの額を掌でぐぐぐっと抑えた。


「やめろよ、ライゾウ...」


「いいじゃな〜い!」


「ゼ...ゼラ!ライチが戻って来ます!!」


ニコの言葉でライゾウはピタッと止まる。俺はそのスキにライゾウと離れた。


「手になにか抱えてます!」


「えっもう!?」


「すごいぞライチ!!」


皆は喜んでいるが、俺は落ち着いて近くの古いイスに腰掛ける。
ライチはすぐには少女を連れてこない。ここはデンタクに頑張ってもらうしかないな。

俺は顎の下に手を当ててそんな事を考えていた。
そしてそんな俺の事を『美しい瞳』が捕らえている事に、その時は気づいていなかった。


「きゃはっスミレ...」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ