続編
□タミヤ
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「はぁ…はぁ…」
俺は走っていた。
今、置いてきた友を迎えに。
先程、ライチをカノンと二人でライチ畑に送り届けた。見られないよう人気のない道を歩いているたせいで、思ったより時間を食ってしまっている。
それでも、行かなくてはゼラの脅威に襲われているスミレを助けに行かなくては。
「はぁ…スミレ…!」
全力で走ってクラブに戻った。
扉の前に立つと、外側から何者かに開けられた痕跡があった。
「ゼラ…」
俺は中にゼラがいるのだとわかり、思いっきり扉を開ける。
「ゼラ!スミレ!」
開けた瞬間にゼラとスミレを呼ぶ。俺はそこに二人が居るものだと疑いもしなかったんだ。
「はっ…?」
しかし、そこにはゼラどころかスミレもいなかった。急いでベルトコンベアを下り二人を探した。
「スミレ?おい!スミレ!」
「っるさい…な…」
「!!」
スミレを呼びながらクラブを歩き回ると足元から声がする。
そこには頭から微かな血を流しながら仰向けで横たわるジャイボがいた。
「ジャイボ…」
ジャイボはいつもの調子とは違い、弱々しかった。
「タミヤ」
「え?」
「ねぇ…タミヤ」
ジャイボは両腕をそっと前に出して俺を見る。俺はどうしたのかとその場に立ち尽くした。
「起こしてよ、もう何もしやしないから」
「え?あ、おう…」
ジャイボのいつもと違う雰囲気に押され、俺は取り敢えずジャイボの両腕を掴んで立ち上がらせる。ジャイボは立ち上がると光を無くした目で俯いていた。
あまりのジャイボの変貌に一瞬忘れていたが、俺はハッとなってジャイボを見る。
「ジャイボ!スミレは!?ゼラは来たのか!?」
「うるさいな…」
「答えろよ!」
俺はジャイボの両肩を掴んで強く問う。するとジャイボは少し黙ってから俺の両手を解いた。
「ゼラは…来たよ」
「じゃあ…!」
「そして、スミレと二人で出て行った」
「なっ!」
「スミレはゼラと二人でここからいなくなっちゃった…」
「は…」
一体どういう事だ?スミレがいなくなった?ゼラと一緒に?
なんでだよ。どうしてゼラなんかと二人で?
迎えに…絶対に迎えに行くって言ったじゃねぇか…なんで…!
「なんで…なんでだよ!?」
「スミレは…ゼラを助けてあげるつもりなんだ…」
「た…助ける…?」
「よくわかんないけど…きっと二人は…」
「…」
ジャイボはすっかり大人しくなってそれ以降は何も言わなかった。
俺は何がなんだかわからなかった。
でも一つわかったのは、スミレはゼラと二人で光クラブから…蛍光町からいなくなってしまったのだという事だった。
「えっ?どういう事?」
「だから!スミレがいなくなったんだよ!」
「スミレ君が?どうして!?」
「知らねぇよ…クラブに戻ったらスミレはいないし、ゼラも来なかった。つまり二人とも消えたんだよ!」
「そんな…」
俺はあの後ライチ畑に戻った。もしかしたらライチ畑に来ているかもと思ったが、やはりいなかった。
カノンもスミレがいなくなった事に大層ショックを受けていた。それはライチもなんだろう。ライチは黙っていたが、心なしか悲しそうにも見えた。
機械に心が芽ばえたなんて信じがたいが、俺にはそう見えてしまったんだ。
何もできずに一日が過ぎた。
翌日にクラブに行くと、そこには張り紙がされていた。
そこにはスミレと二人で一年、蛍光町から離れるというゼラからの言葉だった。メンバーは皆驚いていたが、デンタクだけは事前にスミレから手紙をもらっていて知っていたらしい。
俺としては、何故俺には何も言ってくれ無かったのだろうという思いでいっぱいだった。
何故…何も言ってくれなかったんだ。俺が、頼りないリーダーだったからか?スミレが一人で頑張っている時何も出来なかったからか…?
でも…
『俺一人じゃ…きっと今頃死んでたよ。助けてくれてありがとう。タミヤ』
あの言葉は嘘だったのか?スミレ…
「お兄ちゃん!」
「…タマコ」
俺は休みの日になっても家にいる事が増えた。
あの日以来、光クラブにまた行かなくなったからだ。
そうしていると妹のタマコが嬉しそうに飛びついて来る。
「お兄ちゃん!今日もいるんだね!遊ぼうよ!」
「そうだな…」
「ねぇお兄ちゃん!今度はスミレ君といつ遊ぶの?」
「えっ?」
「スミレ君…かっこよかったなぁ…タマコまた会いたい!」
タマコはうっとりとして顔を赤らめながら言った。
だが俺は何も言えなかった。まさか、スミレがこの町からいなくなったなんて。あの日、蛍光湾でスミレを好きになった妹に言えるはずもない。
「お兄ちゃん?」
「…」
「お兄ちゃん…もしかしてスミレ君とケンカしたの?」
「はっ?な、なんで…」
「やっぱり…お兄ちゃん最近お元気ないもん!スミレ君とケンカしたんでしょ?」
タマコはやれやれと言ってため息をつく。
喧嘩なんかしてないのに俺は否定出来なかった。
すると、タマコはポンポンと俺の頭を撫でる。
「タマコ?」
「お兄ちゃん、学校の先生が言ってたんだけどね?ケンカってどっちかだけが悪いなんて事は無いんだって」
「…」
「だからね?どっちかがごめんなさいすれば、すぐに仲直り出来るの。それはお友達なら絶対にできるんだって」
「俺は…」
「だからきっとお兄ちゃんもスミレとすぐに仲直りできるよ!」
タマコはニコッと笑った。タマコのその笑顔は見ているこっちが癒やされる物だ。
俺はガバッとタマコを抱き上げる。
「わっ!」
「ありがとな、タマコ」
「えへへ」
「よし!遊ぶか!」
「うん!」
喧嘩…
仲直り…
「俺は…」
ゴウンゴウンゴウン
俺はクラブに行く足を進める。
俺は翌日からまたクラブに行くようにした。スミレはきっと帰ってきてくれる。
喧嘩をした訳ではない。
でも俺はスミレに会いたい。もう一度スミレに会って、勝手にいなくなった事に対して文句を言って、それでお帰りって言ってやりたいんだ。
それはゼラにもだ。
ゼラ…俺がお前を光クラブに誘った。光クラブは俺が作った。俺の光クラブだ。
でも、俺「だけ」の光クラブでは無いんだと思う。
クラブに戻って思った。この光クラブには帝王が必要なんだって。だから俺は王座には座らないし、俺がトップだって言うつもりもない。
俺はリーダーとして、帝王のお前を待ち続ける。
「ふぅ…」
スミレとゼラが消えて一年がたった。
俺達は中三になった。
俺は学校帰りも毎日光クラブに寄っている。しかしやる事が無く、俺達はただ集まるだけの物になった。
ライチとカノンもあの日以来クラブには訪れていない。
「…」
道を歩いて一人クラブに向かう。
なぁ、ゼラ。俺達は喧嘩をしてたんだろうか。
俺がリーダーだと言いはってお前を認めようとしなかった。お前は俺の光クラブを奪ったから。
でも俺は、お前に無理矢理反抗しようとしてダフとスミレにまで危ない目に合わせた。
タマコの言っていた事がわかる。どっちかだけが悪いなんて事は無いんだと。
「ゼラ…」
初めてゼラに会った時。弱々しかったお前を助けるような気持ちで誘った。
そんなお前に嫉妬してヤケになっていた。
ゼラ…悪かったよ。お前の事を俺は認めたくないあまりに見ようともしなかった。お前の事を知ったつもりでいて、何一つわかっちゃいなかった。
俺…今度こそ謝る。ちゃんと謝るから頼む、戻って来てくれ。
「ゼラっ…」
俺はぐっと俯いて拳を握る。
「タミヤ?」
「っ!?」
その瞬間声が聞こえて俺は顔を上げた。
「ぜ…ら…」
「タミヤ…?」
そこには目を疑う光景が広がっていた。
「ゼラ…」
ゼラが、立っていた。
あの日、カネダとダフと三人で光クラブを作った時と同じく、顔色一つ変えずに佇む一人の男。
「あっ…!タミヤ!」
「スミレ…!」
するとすぐ後ろから息を切らしたスミレが走ってくる。
一年前とさほど変わらぬ姿で。
「タミヤ!」
スミレは俺を見つけると満面の笑みを浮かべた。
そして一年ぶりというのを忘れさせるかのように何も言わず抱きついてきた。
「タミヤ!久しぶり!」
「スミレ…」
「会いたかったっ…」
スミレは俺を確かめるかのように強く抱きしめる。しかし俺はこの一年の事をふつふつと思い出し、スミレの肩を掴んで引き剥がした。
「馬鹿!!」
「はっ?」
いきなり叫びだした俺を見て、スミレは驚く。
「馬鹿!何が久しぶりだよ!会いたかっただよ!お前俺がどれだけ心配したかわかってんのか!?一年前に光クラブにお前がいなくってどれだけ不安になったと思ってるんだよ!!」
「タミヤ…」
「馬鹿野郎!!」
「ぎゃ!」
俺は迷わずスミレの頭に拳骨を食らわす。スミレは子供のような声を出して頭を押さえた。
「いてぇ!何すんだよ〜」
「ったく…スミレ」
「え?」
俺はまたスミレを引き寄せて抱きしめる。そしてポンポンと背中を叩いた。
「おかえり、スミレ」
「…ただいま!」
スミレは俺の背中に手を回す。本当はもっと何か言いたかったはずなのに、不思議と俺はスミレが帰ってきたとわかっただけで安心してそれで良かった。
「タミヤ…スミレ…」
名前を呼ばれてハッとなる。
見るとゼラがこっちをガン見していた。俺は慌てて体を離す。
「ぜ、ゼラも帰って来たんだな…」
「…」
ゼラは黙ってこっちを見ている。俺としては何だか気まずい感じになって、スミレを見た。
するとスミレは「ああ!」と声を上げた。
「そうだ、ゼラほら!」
「うっ…」
スミレはゼラの所に行くとトンと背中を押す。ゼラは体制を崩しつつ俺の前に立った。
「え?」
「ゼラ、言う事あるだろ?」
「っ…」
ゼラは俯いていたがスミレに言われて顔を上げる。
そして唇を震わせながらそっと呟いた。
「タミヤ…すまなかった…」
「えっ?」
ゼラは苦しそうに言う。まさか謝られるとは思ってなかったから驚いた。
「その…君の作った光クラブを、僕は僕の為だけに利用した。色々と迷惑をかけて…すまなかった」
ゼラは少しだけ頭を下げてから俺を見た。
どうしたらいいかわからずスミレを見るとスミレはニコッと笑った。
「ゼラ、この一年でずっとタミヤに謝ろうって思ってたんだ、な?」
「…」
ゼラはぶるぶると震えていた。なんだか気まずい相手に無理矢理謝られているような気分になる。
そして同時にずっと考えていた事がゼラと同じだったのだという思いから、体から一気に力が抜けていくのを感じた。
まるで…今までの負の感情が全身を伝う様に溶けていく感覚。
それを感じると俺は自然と笑みが溢れる。
「ゼラ!」
「っ!?」
気がつくと俺はゼラの肩を組んでいた。突然の事にゼラは少しよろける。
「…俺は待ってたぜ!ゼラが戻ってくんのを!」
「良いのか…?」
「何が?」
「怒りを覚えないのか?僕に対して…」
俺はゼラの肩を組んだまま歩く。
「友達、だろ?俺達は」
「は…?」
「いや違うな。仲間だ」
「…」
俺は今度はスミレの方を向いた。スミレはそれに気づくと、俺に駆け寄って肩を組む。
「へへっ」
「行こう!皆待ってるぜ!ゼラ!」
「…」
ゼラは少し黙ると納得したようにフッと笑った。
そして先程の態度は何処へやら眼鏡をくいっと上げて俺の腕を外す。
「お?」
「さぁ…行くぞ。ヌル、スミレ。ゼックス、タミヤ」
そう言ってツカツカと早足でクラブに向かう。
俺はスミレと目を合わせて笑うとゼラの後を追った。
「待てよゼラ!」
「置いていくなって〜」
これから先、クラブはどうなって行くのだろうか。
でも例え何があっても今度こそ俺は、仲間とゼラを守れる男になろう。