本編

□本当の自分
1ページ/3ページ


デンタクがドライバーを手にライチの点検をする。
子供とは思えない様な手付きだ。


「歩行よし、各部位の動きも正常、外部の認識も正常、ゼラ動作確認完了しました」


「すごいわ!本当に見えてるの?」


「すげぇよ、これ...」


デンタクの点検が終わると、ライゾウとヤコブはさっそくライチに近づいて言った。


「なぁ、ライチ。俺誰だかわかるか?」


ニコはライチに自分を指して言う。ライチはニコの方を向き、口を開く。


「ニ、コ」


「うはっ!」


「かっこいい〜!!」


「全員の名前を言えるかしら?」


ライチの言葉に3人は盛り上がっている。1番興奮しているのはこの3人かもしれない。
この後ライチは全員の名前を完璧に言えるだろう。


〈俺...何番目に呼ばれっかな?〉


「ライゾウ」


「あったり!」


「カネダ」


「おお!」


「ダフ」


「よろしくな、ライチ」


「ヤコブ」


「そこはボケて欲しかったなぁ」


「デンタク」


「僕、忘れてたら泣くよ〜」


「タミヤ」


「お...おう」


「ジャイボ」


「きゃはっ」


「ゼラ」


「ようこそ、光クラブへ」


しかしそこまで言って、ライチは黙ってしまった。


〈あれ?〉


俺だけ呼ばれていない事に皆も不信に思ったのか、俺を見る。


「おいおいライチ〜そこまで言ったらコイツの事も呼べよ〜」


するとヤコブが俺の肩を掴んで、グイッとライチの前まで行った。


「...」


しかしライチはやっぱり黙って俺を見つめる。


「あれ?おかしいですね?スミレのデータも入れておいたハズなんですが?」


「ライチ、彼はスミレだ。呼んでみろ」


デンタクは焦った様に、持っていた電卓をカチカチ押す。ゼラはライチの前に来て、俺の肩に手を置いた。


「違う...」


「え?」


「この子は...スミレという男ではない...」


ライチはそう言うと、ゴン、ゴン、と音をたてて俺に近づいて来た。ヤコブとゼラは俺から手を離し、後ずさる。俺は近づいて来たライチを見上げた。


「この子は...女の子...少女だ」


「はっ?」


俺は驚いて変な声が出た。


「ちょっとちょっと!このライゾウちゃんを差し置いて、スミレが女の子ってどういう事!?」


「きゃはっそうだよライチ、スミレはどう見ても男じゃん」


「少女は...ここにいる...」


それでも尚、ライチは俺を見つめてそう言った。
どうして俺が少女なんだ?一度も女に間違えられた事なんてないぞ?まさか昔は女だったから?まさかそんな訳...


「まぁ、いいだろう。デンタク、後でもう一度スミレのデータを入れて置くのだ」


「は、はいゼラ!」


ゼラはまたライチに近づく。


「いいかライチ!ではここにいるスミレの他に、美しい少女を連れてくるのだ!」


「少女の...捕獲...」


それから皆は何かを言っていた様だが、俺は頭に入ってこなかった。
俺はまだ、昔の自分を捨てられてないというのか?
そんな筈ない、俺はもう1年半ずっと男として生きているのだから。


「...い、おーい、おーい!スミレ!」


「はっ!」


「もう、どうしたのよスミレ?」


ヤコブとライゾウの声にはっとなった。俯いていた顔を上げキョロキョロと周りを見るが、いつの間にかライチの姿が見えなくなっていた。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ