本編
□第二の裏切り
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「お邪魔しま〜す」
「狭いけどどうぞ」
俺は家について中に入る。そして部屋の電気をパチリと付けた。
「あ、あれ?スミレ親は?」
「え?あ〜」
誰もいない事に気が付いたのか、カネダは入ってからキョロキョロと中を見渡す。
俺は正直何と言おうか迷った。
この世界に来てからマルキド・マルオ以外の身内に会っていないからだ。この世界の自分に親がいるのかどうかすらわからない。マルキド・マルオ自体あの日から一度も会っていない。
「俺...ガキの頃に親、二人共死んだんだ」
「えっ?」
「その、事故でさ」
俺は苦笑いで頬を掻いて言った。カネダは驚いてから「ごめん!」と謝ってきた。
〈まぁ、そうなるよな〉
「いいって!気にすんな!それより晩飯何がいい?俺作るぜ?」
「あ、うん。な、何でもいいよ...」
それからは俺の作った夕食を二人で食べた。そして風呂に入り、カネダに俺のパジャマを着せた。それから二人でトランプをしたりテレビを見たりとっても楽しかった。カネダはいつも暗いし喋らないが、この時だけは笑ってくれていた。
俺は...いや「私」は友達とこうやって誰かと家でお泊りをするというのがずっと夢だった。女の子らしいパジャマパーティーでは無いが、それでもとても幸福な時間を得られた。
「じゃあそろそろ寝るか」
「うん。そうだね」
しばらくそうしてから俺は畳に行き、布団を敷いた。押し入れにはちゃんと布団二、三個位布団が入っていたので二つを敷く。
そしてパチンパチンパチンと三回引っ張って消すタイプの電気を消し、布団に横になる。
「それにしても、俺こうやって誰かと寝るの何年ぶりかな」
「え?」
薄暗い中、俺は寝転びながらそんな事を言った。カネダは寝返りをうち俺の方を向いた。
「カネダは?」
「僕は時々、タミヤ君やダフとお泊りしてたからな...」
「そうか」
「うん。僕達は親同士も仲良いし、年=友達歴だからね」
〈そういえば漫画でもそんな事言ってたな〉
俺は両手を頭の後ろに組んだ。でもまぁ漫画の中にいたカネダとこうしているなんて、数年前まで考えてもいなかったな。
「スミレは、寂しいの?」
「へっ?」
不意にカネダにそんな事を言われて変な声が出た。
「何で?」
「だって、両親もいないからずっと一人ぼっちなんでしょ?」
カネダは少し悲しそうな顔でそう言った。考えてもいなかった事だ。前の世界では友達と呼べる人はいないし親とは仲悪いしで確かに寂しかったのかもしれない。
でも、でも今は...
「寂しいくねぇよ」
「そうなの?」
「だって俺には光クラブが...皆がいるからな」
そう言ってゴロッと頭を動かして上を向く。
「俺...一年半の期間、すっげぇ楽しかった。ゼラは色々言うけど、でも皆でライチを作っている時、なんだかんだ言ってタミヤはリーダーだしダフは優しいしヤコブやライゾウは面白いしデンタクの言う事にも興味あったしニコは頑張り屋だしジャイボは怖いけどやっぱりいてくれた方がいい。それに...」
俺はカネダの方を向いてニコリと笑う。
「カネダはさ、いつも自分より皆の事を考えてくれてるよな」
「え?」
「どんな時も周りの事を優先して考えてくれる。優しいいい奴だよ。カネダはそういう所がある」
俺の言葉にカネダは頬を赤く染め「そうかな...」と照れた様に笑った。
漫画では分からなかったけど、光クラブは本当に楽しい所だった。
だから守りたい。
〈それが、自分に出来る事なら...〉