本編

□第二の裏切り
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光クラブに到着し、皆木箱に取ってきたライチの実を入れる。
俺も鞄に入ったライチの実をボロボロと一気に木箱に入れた。チラリとライチの方を見ると、ライチはその木箱をジッと眺めている。ライチが昨日の事を黙っていれくれて本当によかった。もしバレたら何されるかわかった物じゃない。


「ライチ、燃料補給の時間だ」


俺が全部入れ終わるとニコは木箱を指して言う。ライチが木箱に手を伸ばしたので俺は一歩後ろに下がった。
ライチは両手でライチの実を取ってガツガツと食べる。


「沢山取ってきたのにもう無くなるのか」


「こいつ結構燃費悪いよな」


「美味しそうに食べるわね!」


「この巨体をライチの実で動かしてるんだもんね」


俺を含めニコやライゾウやデンタクはマジマジと燃料補給するライチを見つめる。
まぁ、ガソリンが燃料って言われても子供が買える物でもないしな。


「君達!」


急に後ろから聞こえて来た声に皆は一斉に振り向いた。


「よく聞こえなかったんだが、今僕の悪口を言ってたんじゃないだろうね?」


ゴゴンゴゴンという音ともにゼラがベルトコンベアを下り、鋭い眼差しで俺達をとらえていた。


「ゼラ...むしろ逆です!」


「そうです!ライチの設計の素晴らしさを讃えていたところです!」


「そうか」


突然のゼラの登場に皆は汗をかいて必死に言葉を言い換える。ゼラはそれを聞いて機嫌よく「フフフ」と笑った。


「讃えていたか...ならば良い」


もう皆は三人の少女がいなくなった日から、かなりゼラに怯えるようになったのかもしれない。
俺がそんな事を思っていると、ゼラはベルトコンベアから下り一号...いわばカノンの横にある空になった瓶と皿を見つけた。


「一号の食事が無くなっている!!」


「ライチが与えたようです!」


「そうか、僕は嬉しいぞ」


ゼラは機嫌よく王座に座って眠るカノンを見つめ、眼鏡をあげた。


「お前には生きる意思が有ると言うのだな!」


カノンは今起きているのだろうか、それとも本当に眠っているのだろうか、俺には解らない。もし目覚めたらゼラはカノンにどう対応するのだろう。


〈まぁ、俺は昨日勝手に少女と話した上に少女に触っちゃったんだけどね〉


機嫌のいいゼラを見て、俺は自分が少し白々しく感じた。


「お前が寝てようが起きていようが、僕にはどうでもいい事だ。お前のような美しい少女が同じ空間にいる、それだけでここは祝福された場所になるのだ」


俺はそれを見て目を細める。ここに連れて来られたのがカノンでよかった。もし他の少女だったら怖がって叫び散らして殺されていたかもしれないから。


「ライチの誕生!そしてライチは、美しい少女を奪って来た!!」


ゼラは王座の台から下りてその下に置いてあるチェスセットの前に立って言った。本日の我らの帝王は機嫌が良いらしい。


「僕は全てを手に入れた!この光クラブは盤石だ!そうだろう?」


「はい!!」


「そのとおりですゼラ!!」


ゼラの言葉に皆もさも嬉しそうに答えた。
しかしゼラは言い終えるとフッと表情を暗くする。


「一体...誰なんだ...?」


「は?」


ゼラは途端に汗をかき体を震わせた。皆はキョトンとしてゼラを見る。


「誰だ?この光クラブを裏切ろうとする裏切り者は一体誰なんだ!?」


「ゼ、ゼラ?」


いきなりそんな事を言い始めるゼラに皆も動揺を隠せなかった。いくらダフの疑いが晴れても、裏切り者の恐怖からゼラは開放されていない。


「ゼラ...落ち着いて下さい...」


「ヌル、スミレ」


「は、はい?」


俺はゼラに向かって両手を出して落ち着くよう言った。しかしゼラは俺の名を呼んだかと思うと、チェスの台に手をかけた。


ガシャン!


「ゼラ!?」


「僕は許さないぞ...裏切り者は処刑だ!!」


「っ...」


ゼラは座りこんで自分の頭を抱え込んでうずくまった。今彼にどんな言葉をかけようときっと彼を恐怖心から助け出す方法はないのだろう。


「...」


俺は皆の中でカネダを見た。カネダもゼラの変貌に驚いて汗をかいている。
次にやる事は決まっていた。
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