本編
□妨害
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「グーテンモルゲン!」
「グーテンモルゲン!」
あの後俺達はクラブの中に入った。俺達は挨拶をしてベルトコンベアを下る。
中ではニコとライゾウとヤコブとデンタクの四人が既にいたが、挨拶せず何かこそこそと話していた。
「どうかしたのか?」
「あっ!スミレ!カネダ!大変なのよ!」
俺が声をかけるとライゾウが慌てたように言った。カネダと二人で輪の中へ入ると、そこには昨夜見た通り首の折れたチェスのキングがあった。
「こ、これゼラのチェスだよね!?」
「首が折れてる...」
カネダはとても驚いて声をあげる。俺も一応驚いたフリをした。
「お、恐らく!この鉄が天上から落ちてきてチェス台の上にあったキングに直撃してしまった物と思われます!」
するとデンタクは一緒に落ちていた鉄くずを指して言った。やはりこの鉄くずのせいだと思われたらしい。
「で、でもよ。ゼラのチェスが折れるって何か不吉だよな...」
「不吉ってなんだよ?ヤコブ」
「だってさ他にもチェスの駒はたくさんあるのに、わざわざキングに当たらなくてもいいと思わない?」
いつもはおちゃらけているヤコブでさえ、そんな事を言っていた。ニコはヤコブの言葉を聞き返し、何かを考え込むような顔になる。
キングはゼラを象徴する物と言ってもいい。そのキングの首が折れているなど大変な事だ。実際にその現場に居合わせると周りの雰囲気にも押され、何も言えなくなる。
「どうしたんだ。諸君」
「ゼ、ゼラ!?」
皆が黙りこくっていると、ゼラが表れた。緊迫していた状況に一番来てほしくない人が来てしまい皆の息を飲む音が聞こえる。
ゼラは皆の表情を見て眉を潜めつつ俺達に近づく、しかし首の折れたキングを見つけた途端目を見開き声をあげた。
「キングが折られているだと!?」
ゼラは漫画で見たのと同じ反応を見せた。震えながら汗をかき、チェス台の所まで来ると折れたキングを拾った。
「誰だ!?誰だ...!?これは一体誰の仕業なのだ!?」
「ま、待ってください!ゼラ!」
「キングに鉄くずが落ちてきたのよ!私達じゃないわ!」
ゼラの言葉にニコとライゾウが慌てて言った。ここで疑われる訳にはいかないと、俺は鉄くずを拾いゼラに見せる。
「ゼラ」
「ヌル、スミレ...」
スッとゼラの前に立ち鉄くずを見せると、ゼラは俺の名を呼ぶ。
「アインツ、ニコ!ズィーベン、ヤコブ!フィーア、デンタク!ツヴァイ、ライゾウ!ドライ、カネダ!アハト、ジャイボ!」
〈!?...ジャイボ〉
そして一人一人の名前を呼んだ。カネダの名を呼ばれてホッと息をついたのもつかの間、いつの間にかクラブに入って来ていたジャイボを見て目を見開いた。驚いたのは皆も同じようだったが、今はそれ所ではなかった。
ゼラは名前を呼び終えると、俺の手から鉄くずを奪い床に叩きつける。
ガッシャン!!
「ゼラ!?」
「ゼックス、タミヤ!フュンフ、ダフ!二人はどうして来ないんだ!まさかあの二人がやったのか!?」
思いもよらぬ回答が出て俺は「なっ」と声が出た。
俺は今回、カネダの処刑を止めるための作戦に出たのだ。キングの首を折った罪をカネダに擦り付けようとしたジャイボを止めるためだった。だから今日一日カネダの側にいたし、夜中に鉄くずを用意した。そしてジャイボから鎮静剤を打たれそうになったのも逃げたのだから。
〈それなのに...〉
まさかここにいないタミヤとダフが疑われるなんて。
「まっ待ってください!犯人は二人じゃ...」
「シー...」
「っ!?」
慌てて声を出すと、後ろからジャイボに回り込まれ人差し指を口に当てられた。ジャイボは美しすぎる顔で俺を見る。俺はその顔を見てゾッと恐怖を感じた。
〈くそっ...くそっ...〉
「今夜はとにかく解散しよう...タミヤ達の事は考えておく」
ゼラの言葉にそれぞれは不安を感じつつその後は、バラバラに解散した。
でも、俺の心は不安でいっぱいだった。
〈どうすれば、どうすればいいんだ!〉