あの空の向こうへ

□あの空の向こうへ 9
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グァンホンくんの演技が終わり、クリスが終わり、ピチットくんが終わり…彼の順番が来て、その存在を思い出した。
そう、ギオルギー。
(…ヤコフが近くにいて保護者がいるような安心感はあったけど、そうだった。ギオルギーが出るからヤコフがいるんだった)
ショートプログラムにもいたのにね。泣きながらインパクト大な演技を見せてくれたのにね。と、心の中で存在を忘れていた事を謝る。
(そう言えば、ユーラチカがギオルギーは失恋したばっかりだって言ってたな)
SNSをやらない私は知らないのだけど、アイスダンサーの彼女といちゃいちゃしてる写真をアップしまくっているとミラから聞いた事がある。なぜかその写真がミラからのメールに添付されてきた事もある。
(失恋、て事は、振られたのかな…振られるのってどんなだろう)
もしも今、ヴィクトルに別れを望まれたら、私はどうなるんだろう。
(意外と冷静に受け止めたりして。だって元の1人に戻るだけでしょ…?)
ふっとヴィクトルが優しく微笑む顔が浮かんだ。
(あの笑顔が…私を見てくれなくなるのは…確かにつらいかも)
今まで、仲のいいカップルが罵り合って別れる姿をいくつも見てきた。人の心は変わっていく。
(ヴィクトルも、いつか変わるのかな)
世界中で一番深いのは子を想う親の愛だと聞いた事がある。それを知らない私には、誰かを想ったり想われたりする事に違和感を感じていた。
いや、知らないわけじゃない。
施設の大人達も、ヤコフだって友達だって、私を大切に思ってくれた事に変わりはない。私は確かに愛を知っている。なのになんとなく虚しさを感じていた事を、私はいつも認めなかった。受けていた愛情に物足りなさを感じるなんて、とても図々しい。
(じゃあ、私は…?)
私も変わっていくのだろうか。ヴィクトルから受ける愛を必要と感じなくなる日がくるのだろうか。
「ナマエ?…ナマエ?」
「あっ、はい!なぁに美奈子さん!」
「…いや、ぼーっとしてるからどうしたのかな、って…彼あんたの同郷でしょ?応援しないの?」
「してるよ!ちゃんと応援してる!ぎおるぎーだばーい!」
「それ、心こもってる…?」




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