あの空の向こうへ

□あの空の向こうへ 9
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中国大会、フリープログラム。
不安を私だけに打ち明けたヴィクトルは笑顔で勇利の隣にいるけれど、当の本人は真っ暗な顔をしている。
「勇利、おはよう」
「お、おはよう」
昨日のアドレナリンはすっかり消えて、プレッシャーだけが残ってしまったようだ。
「ナマエ、今日も勇利の応援を頼むね」
「もちろんだよ」
ヴィクトルの笑顔を見ていると、なにもかもが安心できる。
と、信じたい。


「ナマエ、おはよう」
ヴィクトルと別れ観客席へ向かおうとしていた私に声をかけたのはクリスだった。
「おはよう」
「あれ?ナマエ、なんかスッキリしてるね。ヴィクトルと仲直りしちゃったの?」
くすっと笑うクリスに、あぁやっぱりこの男は意地悪だと眉をしかめた。
「あはは、そんな顔しないで」
「…ヴィクトルなら渡さないもん」
「勇利から奪うさ」
え、いや、どういう意味。渡さないとか言っちゃった私も私なんだけど。
「ナマエは、今のヴィクトルに満足してる?」
「え?」
「君だって望んでるはずだよ、彼が氷の上で踊る姿を」
クリスが何を言いたいのかを察し、彼を見上げた。
ヴィクトルが選手として復帰する事を世界中が望んでいる。もちろん私も、彼が優雅に滑る姿をもう一度見たい。
だけど今のヴィクトルにとって、勇利が新しい希望である事は間違いなくて…私はそれを信じているのだ。
「無理だよ」
「俺が引き戻す」
「ヴィクトルは勇利の事しか考えてないから」
と言葉にして、ハッと付け足した。
「一番考えてるのは、私の事だけど!」
ついムキになってしまった私の頭を、クリスは微笑みながらポンポンと叩いて去っていった。
「…おちょくられてる……」

そんなクリスの演技に、美奈子さんは興奮しっぱなしだった。
(あの衣装、やりすぎなんじゃ…)
脇から腰のシースルーが、セクシーやエロスを通り越しているような気がする…まぁ美奈子さんが喜んでいるところを見ると、通り越しちゃってるぐらいがクリスにはちょうどいいのだろう。
(ヴィクトルがああいう衣装着たら、どんなかな…)
それはそれで似合う気もしてきた。
「きゃー!!ナマエ!今の見た!?」
「あっ、はい!見てた!セクシーだね!!」


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