あの空の向こうへ

□あの空の向こうへ 8
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仲直りをするように、想いを確かめるようにお互いを求め合って、私達の空気はいつもと同じ優しいものになった。
「それで、ナマエ。結局昨日はどこに?」
「あ、そうだったね。えっと…バーに…」
ヴィクトルの腕枕があったかい。
「ひとりで?」
「の、つもりだったんだけど、クリスがいて」
「君の嫌いなクリス?」
ヴィクトルがクスッと笑った。
「え、」
「嫌いなんだろ?ナマエはわかりやすいからね」
「…ちょっと、苦手なだけ…だ、だってクリス、いつも意地悪なんだよ」
「あはは、クリスは君をからかって楽しんでるんだよ。ナマエの反応が可愛いから」
「もう…」
もそもそとヴィクトルにくっついた。
「…クリスに言われたの。ヴィクトルは私から勇利に乗り換えたって」
「乗り換えた?」
「それで、私が勇利に嫉妬してるって」
ヴィクトルが私の髪をくるくると指に巻いて遊び出す。
「そんな風に見透かされたら、どんどん苛立っちゃって」
「見透かされたって…ナマエもそんな風に思ってたの?」
「あ、…まぁ」
「まったく。みんな俺の事なんにもわかってないなぁ」
ヴィクトルがくすりと笑った。
「ま、俺にとっての本題はそこじゃない」
「…え?」
「そもそも、女の子ひとりでバーに行くなんて」
あ、怒られる。
「他の男に誘われたりさらわれたりしたらどうするんだ」
「…はい」
「異国でひとりでバーに行くなんて考えられないよ」
「…ごめんなさい」
「二度とそんな軽率な行動はとらないって、約束できるね」
「はい。約束します…」
何もかもヴィクトルの気持ちを疑った私が悪い。
だけど、
「じゃあ、ヴィクトルも約束して…」
「…ん?」
「いくら酔っても、私が隣にいる事忘れたりしないで」
ぎゅっとヴィクトルにしがみつくと、彼は笑って抱きしめてくれた。
「勇利の事も想ってもいいけど、私がいるのに勇利勇利って、勇利ばっかり呼ばないで…」
こんな風に甘えたのは久し振りだった。めんどくさいなと自分でも思う。
「俺そんなに酔ってたんだね…ごめん」
ヴィクトルは私に覆いかぶさって優しいキスをくれた。何度も。
髪を撫でられ、その手が頬に降り、さらに首筋へ。
「ナマエ、仲直りをしよう」
少し荒れた呼吸の合間に、低く優しい声が響いた。
「…え」
「もう一回」
「ヴィ…」
深いキスが降りて来る。


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