あの空の向こうへ

□あの空の向こうへ 8
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美奈子さんと観客席で大会を観戦していた。
のだけど、結局私が見ているのはヴィクトルだったりして、
「ナマエ、ヴィクトルばっかり見てないで、勇利も応援してよ!」
とハイテンションな美奈子さんに見透かされた。
「も、もちろんだよ!勇利って、氷の上に立つとまるで別人になるね」
「ほんと、ヴィクトルのおかげよね」
「そうなの?今までは違ったの?」
「…なぁに今更。あんたってほんと、ヴィクトルの事しか頭にないのね」
ごちそうさま〜と美奈子さんが笑った。
(え、なんでごちそうさま?日本的表現?)
試合中、美奈子さんが色々と解説をしてくれるけれど、ごめんなさい…私にはちんぷんかんぷんだ。

勇利のジャンプは全て成功した。
その度にヴィクトルは嬉しそうで、幸せそうで。
選手を辞めてしまったヴィクトルが悔しかったけど、ヴィクトルの選択は間違ってなかったと改めて感じる。

ーーー「嫉妬、だね」

クリスの言葉が頭をよぎる。
嫉妬なんかあるわけない。ヴィクトルは恋人として私を大切に想ってくれていて、コーチとして勇利を大切に想っている。
(ただそれだけの事)


勇利はショートプログラムで首位発進となった。
安堵した感情が新鮮で清々しかったのは、きっと今まで安定していたヴィクトルを見ていたからだ。心配したりホッとしたり…こんな想いもなかなか気持ちの良いものだなと思った。
誰にとっても完璧が当たり前になっていたヴィクトルにとって、可能性を開いていく勇利はやっぱり新しい希望なのだ。

だけど、

「勇利、素敵だったよ!」
試合後に声を掛けた勇利の笑顔に、違和感しか感じなかった。
「ナマエもそう思うだろ?勇利はやっぱり最高だよ」
ヴィクトルはとても嬉しそうで、その笑顔を見て私も幸せな気持ちになる。
なのに…
「あ、ありがとう!頑張るよ!」
勇利が試合後にこんなに緊張しているのはなぜ?
このままこの流れに乗って明日もパーフェクトな演技ができる。誰しもそう信じるものではないのだろうか。


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