あの空の向こうへ

□あの空の向こうへ 6
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優勝の翌朝。
朝食の支度を整えて食事処へヴィクトルを呼ぶと、勇利も一緒に起きてきた。
2人とも安堵の為か和やかな雰囲気だ。
「おはよう勇利。いい結果出てほっと一息ついて、今日が一番幸せだね〜」
と言い茶碗を並べる。
「明日からはまた気を張り詰めちゃうもんね」
ヴィクトルだったらしばらくオフを満喫するのだろうけど、きっと勇利は既に次の事を考えているのだろう。
「ま、そーいうわけで。勇利、今日は一日オフだよ。俺はナマエとデートを楽しむからね」
ヴィクトルが勇利にそう言うと、勇利も大きく頷いてくれた。
「うん、いつもヴィクトルを独占しちゃってるからね。今日は2人で楽しんできて」
「えっ」

デ、デート!!!?

長谷津に来てからまともにヴィクトルと外を歩いた事はなかった。もちろん観光なんて一切ない。(ヴィクトルは私が到着するまでに勇利と観光を楽しんだ模様)
「ほ、ほんとに?いいの?」
「もちろんだよナマエ。一緒に観光しよう。あ、でも一日中ベッドでいちゃいちゃしてるのもいいね」
「観光楽しみ!!」



「ナマエ」
髪を整えていると、ヴィクトルがなにやら大きな紙袋を持って部屋に入ってきた。
「今日の為に買っておいたんだ。開けてみて」
「えっ・・・」
包装紙を丁寧に解くと、それは淡いピンク色のワンピースだ。ところどころ細かい刺繍やレースがあしらわれていて、派手すぎず上品で、とても可愛い。
「えっ・・・」
生地の素材や刺繍の細かさなど、決して安価なものではないと思う。
「いつもありがとう。お礼だよ。着てみて」
「いいの・・・?」
「もちろん」
じゃああっち行っててね、とヴィクトルを廊下に追いやりワンピースに袖を通す。シルエットも綺麗で、試着して購入したかのようにぴったりだ。
ヴィクトルを呼び見てもらうと、わぁ、と目を細めて喜んでくれた。
「思った通り、とてもよく似合ってる。綺麗だ。ま、ナマエは何を着ても似合うけどね」
「・・・ありがとうヴィクトル、すっごく嬉しい」
「良かった」
「私、与えてもらってばっかりだな」
えへへ、と笑うと、ヴィクトルは真剣な眼をして
「与えてもらってるのは俺の方だよ」
と額にキスしてくれた。
「着てもらってなんだけど、脱がせたくなるね」
「さ、出発しよう」


ヴィクトルが勇利と観光した場所をメインに色んなところへ遊びに行った。時間があったので、少し遠くまで足を伸ばし観光を満喫した。
目に映る景色はどれも綺麗で、食べるものも美味しいものばかりだ。何より人々はみんな穏やかで、治安もいい為安心してくつろげる。
「ナマエは何をしても楽しんでくれるから嬉しいよ」
「ヴィクトルと一緒で楽しくない事なんかないよ」
ただひとつ問題なのは、この男がどこでもいつでもべたべたとくっついてくるところだ。ロシアでだって恥ずかしいのに、日本ではそんなカップルがなかなか見当たらない分余計に恥ずかしい。
「ナマエが可愛すぎるからつい、ね」
「人が見てるから!」
「見せつけておけばいいんだよ」
「もう」

あっという間に時間は過ぎ、長谷津行きのバスに並んで座った。
「疲れてない?」
「ヴィクトルこそ。せっかくのお休みなのに、私の為にありがとう」
「どういたしまして」
微笑むヴィクトルに寄り掛かった。
「いつもいつも、私の為にありがとう」
「・・・俺のセリフだよ」
「ううん」
私に光を与えてくれてありがとう。守ってくれる人も守るものもなかった私の世界に色を付けてくれてありがとう。
あの日スケートリンクに行かなかったら。あの日大会に行かなかったら。全ての偶然が重なってこの瞬間の幸せに繋がっている。
「この先ヴィクトルがいなくなっても、十分思い出だけで生きていけるくらい幸せ」
「フラグみたいだからそういう事は言わないで」
「はぁい」

長谷津に到着するまで、私はヴィクトルにもたれかかりその体温を感じていた。


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