あの空の向こうへ

□あの空の向こうへ 6
1ページ/3ページ



実は今回の中四国九州選手権大会で、私は勇利の生スケートを初めて真剣に見た。
(温泉オンアイスでも練習でも、なんだかんだ指示を出すコーチ的なヴィクトルばかり見ていた事は否定しない…)
エロスなかつ丼と聞いて大爆笑したのは申し訳なかったけど、かつ丼はさておき、確かにエロスだった。
「眼鏡とって髪上げたら変身する類のやつだ」
つい口走ってしまった私をミナコさんが不思議な表情で見つめている。

私は勇利の邪魔にならないよう、パスは所持しているものの、なるべく観客として彼を応援するようにしている。
西郡さんやミナコさんはちょこちょこ選手の近くに行っていたけど、
(ヴィクトルには、勇利の事だけ考えて欲しいし)
こうやってスケートにつかず離れずな姿勢が、私のベストポジションだと思っている。
当時、ヴィクトルがよく『今のところはナマエをイメージして滑ったんだ』『今のジャンプはナマエの事を想って飛んだんだ』と語っていた。スケートを知らない私はピンと来なくて、『俺の愛がどれだけすごいか、もうちょっとスケート勉強したらどうだい・・・』なんてふてくされる事もしょっちゅうだった。
(スケート知ってたら、飲みすぎとか食べ過ぎとか、細かいあれこれ考えて、口出ししちゃうかもしれないしな)
何も知らないまま彼らを尊敬し応援しているのが、ちょうどいいのだ。

フリーの演技もとても綺麗だった。
壁に衝突した勇利を西郡さんは怒っていたけど、ヴィクトルはとても喜んでいた。
(きっと失敗しても成功してもヴィクトルは喜ぶんだろうけど)
私より長い時間ヴィクトルと過ごしている勇利に、少しだけ嫉妬する時もある。
「ナマエったら、やたらニヤニヤしてるのね」
ミナコさんはちょくちょく私を不思議がる。
「2人がとても幸せそうで、とても嬉しくて」
「あんたのそーいうとこが、ヴィクトルの心を離さないのね」
ごちそうさま、とミナコさんは言った。
(まぁ、なんでヴィクトルが私を好きでいてくれてるか・・・今まで何度も考えてはわからなくてあしらってきた理論だけど)
自分の事だからきっと私には永遠にわからないんだろうけど、周囲の目を気にしてしまう私にとって、ヴィクトル以外の人がそう言ってくれる事はすごく有り難い事だった。
「ミナコさん、ありがとう!」
「・・・はい?」
(自信持っちゃっても、いいのかな)
ヴィクトルと勇利に会ったら、たくさんおめでとうを言おう。勝ってかつ丼が食べられる勇利に、私の作ったかつ丼も食べてもらおう。
一生懸命努力する2人は素敵だ。そんな2人に、私もご褒美をもらった気分だ。
「ふふ」
「・・・笑ってるあんたは可愛いけど、ちょっとにやけすぎよ」


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ