あの空の向こうへ
□約束を君に
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いつものようにヴィクトルが練習に向かってすぐの事だった。
朝食の後片付けに取り掛かろうとした時。インターホンがなり、ドアの向こうに知らない女性が立っている。
「はい」
『話があるの。出てきてもらえる?』
女性はとても苛立った様子で、緩いウェーブのかかった長い髪をかき上げた。
「なんだろうね、マッカチン」
マッカチンはくぅと首を傾げた。
あの女性の荒々しさに怯えている。自分を落ち着かせるようにマッカチンの頭をそっと撫でて、玄関へ。
ドアを開けると、女性はずいっと玄関へ踏み込んできた。
「ヴィクトルの事で、話があるの」
年齢は私と同じくらいだろうか。もう少し上か。
派手な化粧。整った顔立ち。モデルのようなプロポーション。
「今すぐに、ここを出て行ってもらえないかしら」
「え?…あの…」
「かかる費用なら私が支払うわ」
「すみません、お名前を…」
「ヴィクトルと私、婚約してるのよ。」
何を言ってるの。そう言おうとした私の思考を真っ白にしたのは、マッカチンが女性の足元に尻尾を振ってすり寄ったのと、
「これ、昨日あの人が私の家に忘れてったの」
ヴィクトルの腕時計だった。