あの空の向こうへ

□妖精のひとつ覚え
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ユーリが俺にイライラしているのは知っている。その理由は謎のままだが、ナマエが来ると急に態度が冷たくなる。
ちなみに、俺が忘れ物をするのはわざとだ。俺が忘れ物をすれば練習中にナマエに会える。その目論見を誰かに知られると幻滅されそうだから、俺はいつだって冷静を保っている。

「ナマエナマエナマエナマエ…気持ちわりぃんだよ」
「え」
「口を開けば女の話ばっかり。忘れ物だってぜってぇわざとだろ」

目論見はばれていた。

「ユ、ユーリにもいつかわかるよ」
「いいよわからなくて。ヴィクトルみたいになりたくねぇ」

既に幻滅までされている。

「俺はユーリにも恋愛をお勧めするけどね。ナマエとの素晴らしい日々が、俺のモチベーションに繋がってるよ」
「誰かに左右されるモチベーションなんて、俺には必要ない」
「誰かを愛せば傷付く事なんか当たり前にあるさ。それでも、人は愛が無いと生きていけないだろ?」
「知るかよ」
しかし、そうか…俺は周りが引いてしまうくらいナマエに夢中になっているのか。
「なぁヴィクトル」
「なんだ?」
「あの女のどこがそんなにいいんだよ」
ユーリの真剣な声色に驚いた。何かを模索しているような。
と同時に、
「どこ、って…」
明確に答えられない自分にも驚いた。
「ヴィクトルがそんなに熱上げる程の女なのかよ。どうせ今までと同じで…」
「ユーリ」
ナマエは他の女性とは違う。別に誰にわかってほしいわけじゃないけれど、
「ナマエをそこらの女性と比べないでくれ」
無理に笑顔を作って言ったのは、苛立ちを隠すためなんだろう。
「ちっ」
ユーリは舌打ちをし、リンクに駆けていった。

ナマエを好きな気持ちやナマエの好きなところを言語化するのは難しい。
(全部好き…と言うのは、浅はかな答えなんだけど)
実際、彼女の優しいところや無垢なところ、容姿も含め笑う顔や清い仕草など良いところはたくさんある。反面、消極的なところや気を遣いすぎるところ、八方美人だったりマイナス思考だったり、欠点と言えるべき部分もたくさん見えている。
その全てを、とても愛しいと思う。
(重症だな)
ナマエの事を思うと、幸福感で満たされる。


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