あの空の向こうへ

□妖精のひとつ覚え
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「ヴィクトルが忘れて行ったの。ごめんなさい、渡してもらえる?」
ナマエからトートバッグを受け取った。
「あ、あと、いつものお菓子を、皆さんでどうぞ」
紙袋を差し出すナマエは、今日も笑っている。
無性にイライラした。
「あんたさぁ」
「ん?」
「この菓子どこで買ってくんだよ。クソ不味くて食えたもんじゃねぇよ」
ぶっきらぼうにそう言ってそっぽを向いた。
自分がなんでこんなにイライラしてるのか、俺にはわかっている。
きっと俺の事を嫌なガキだなと思うんだろう。思わせとけばいい。
こいつは敵だ。
「じゃあ、ユーリはどんなお菓子が好きなの?」
予想だにしなかった言葉に驚いて、思わずナマエを見た。
「今度からユーリには甘いお菓子買って来るね」
と笑ってるナマエに、更に腹が立つ。
ヴィクトルに恋人なんて今までだっていたし、ナマエと暮らしてるからって俺には関係ない。
だけどヴィクトルがナマエの話をするたびに腹が立って仕方ないのは、女にうつつを抜かすヴィクトルに幻滅しているからだ。
「ヴィクトルをダメにしたらぶっ殺すぞ」
牽制になると思ったのに、そう言ってもナマエは笑顔を崩さなかった。
「ユーリはヴィクトルが大事なんだね」
余裕ある笑顔がとても綺麗で、俺はクソガキな自分に嫌気がした。
「ナマエ!」
ヴィクトルの嬉しそうな声が響いて、俺は2人を無視して席を外した。





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