あの空の向こうへ
□妖精のひとつ覚え
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それがいつだったかなんて、覚えていない。
「初めまして。ミョウジナマエです」
「一緒に住んでる子だよ。よろしくね」
ヴィクトルも人間らしいなと、思った瞬間だった。
(スケートの事しか頭にない神様みたいなやつだと思ってたのに)
ナマエがリンクに来る事はあまりない。
ヴィクトルの邪魔にならないように配慮してるんだろう。
時々ナマエがヴィクトルの忘れ物を届けたり、買い物ついでに俺たちに差し入れをしてくれたりする。(カロリーが低くてくっそ不味い健康志向のスイーツだ。俺は嫌いだが、食い意地の張った奴ばかりですぐに無くなるから、一番最初に一つ頂いておく。くっそ不味いけどな)
ナマエがリンクに現われると、ヴィクトルの態度が一変する。とんだマヌケな面になるし、周囲もドン引きなくらいナマエの事しか見なくなる。
だけど、表現力やジャンプの成功率は、格段に上がる。
「ヴィクトルさ、女になんか困らないのに、なんでナマエ一人に絞ったんだろうね」
とミラがギオルギーと話してたのを聞いた事がある。ちなみにミラとナマエは仲が悪いわけじゃない。
確かにナマエの外見は整っているが、目立った美人なんかじゃない。
(ヴィクトルはナマエのどこに、あんだけ惚れ込んでんだろ。モデルとか女優とかからもアプローチされてんのに)
そもそも、今まで付き合ってきた女達にはとてもドライだった気がする。ヴィクトルは恋人の話をあまりしないから、詳しくは知らないけど。
(恋人を俺に紹介するのも、ナマエが初めてだな)
口を開けばナマエナマエナマエナマエ。
(ナマエがいなくなったら、生きていけねぇんじゃねぇの)
「だっせぇ」